友人が京都に住んでいます。
築250年は経過している古い家に住んでいました。

昔は間口で税金が決まったので、鰻床の細長い家でした。

その家には二階があったのですが、誰も使っていません。
台所が吹き抜けで、天井に窓があり、二階の土壁の障子が台所を見下ろせるようにありました。
京都のライブハウスで遊んで、その家に泊めてもらったのですが、飲み過ぎたのか、深夜に喉が乾いて台所で水を飲みました。

そのとき、背後に視線を感じました。
上からです。
振り向くと、障子がぴしゃりと閉まりました。
白くて小さな指が確認出来ました。

二階は使っていないと聞いていましたし、その指は子供のものです。
ぞっとしたのは、夜の冷え込みのせいではありません。
天窓も不気味です。
異界へ通じる穴のように見えました。

早々に寝床に潜り、翌朝、友人にその話をしました。
友人は黙って二階に私を案内しました。
古いタンスや箱が並ぶ真ん中に、それがいました。
市松人形です。
年代物で三歳児位の大きさです。
左側の髮だけが背中まで伸び、中途で白髪に変わっていました。
表情は老婆でした。

「たぶん、こいつや」

友人はそう言います。
一目で尋常ではないものと分かる代物です。

「なんで、こんなもん、置いとくんや」と尋ねたところ、彼の祖父が一度寺に預けたそうです。

ところが、その夜、二階で足音がする。
泥棒かと思ったところ、その市松人形が歩いていたそうです。
人形は一言「捨てるな」と言うと、今の位置で止まったそうです。

「ま、害はあらへんから」

友人はそう言いました。