学生時代、アパートを借りたんだ。
それまで寮生活だったから、初めての一人暮らし。
家賃、電気、ガス、水道、そういう支払いってのを自分でやったことがないから、次々止まっていったよ。
そんなことはどうでもいいんだけど。

住んで3ヶ月、何も使えなくなってからは友人宅を泊まり歩くようになり、自宅には荷物を取りに帰るくらいの毎日。

それで住んで半年、大学中退して就職することが決まったので、家賃の清算と引っ越しを親に任せて大阪に移った。
後で親に聞いたんだが、不動産会社に嫌味を言われたらしい。

「お宅の息子さん、何か宗教でもやってるんですか?毎朝お経のような唸り声が聞こえてたと上の階から苦情がありましたよ。伝えようにも昼間は外に出ているみたいで連絡がつかなかったんですけどねえ」

他にもこんなこともあった。
オイラの住んでた寮ってのは、部屋同士の間仕切りがベニヤ1枚とコンクリ、順番になってて、俺の居た314と313の間はベニヤ、315との間はコンクリだったのね。
だから隣の部屋の物音は漏れまくり。

夕方ウトウトしてたら、部屋の中で変な物音がしたんだ。
ぺこぺこ、ぺこぺこって。

「あー、これ、キーボード引いてる音だ。Sの奴勝手に人の部屋で弾いてんのかな?」

と思ってふとキーボードを見ると、誰もいない。
しかし電源は入ってる。

よく見ると、キーボードが勝手にへこんでるんだよね。
かたかた、かたかたって。
まるで自動鍵盤のようにね。
怖くなって起き上がったら、やっぱり電源は入ってない。
夢だったのかと思って313の奴に聞いたんだ。
そしたら、確かに俺の部屋からぺこぺこ、ぺこぺこって聞こえたらしいんだよ。
このときは怖かったな。

夜中に天袋の扉が突然開いたり、院の先輩に聞いたらどうやらその部屋は首吊り自殺があったらしい。
ということも聞いたんだけど、ぺこぺこ、ぺこぺこが一番怖かったよ。