15年ほど前、上京してアパートに一人暮らしだった僕が経験した少し嫌な事件です。

しばらく考えるのも嫌でしたがなんとなく恐怖も薄れてきました。
時効だと思うし書いてみます。

一日雨が降り続く陰鬱な日でした。
学校の課題に明け暮れて気が付くと午前3時。
半ば徹夜を覚悟して一息つこうと手を休めたのですが、途端に空腹が襲ってきました。
男の一人暮らしなので冷蔵庫はカラ、当然コンビニへ行く身支度をします。

コートを羽織って傘を持ち、夜の町へ。
●区の●●と言う所は都心のベッドタウンとゆーか、人はやたら多いのですが場所によるとやたら夜は裏寂しいです。
アパートは●●公園の近所だったので静かさは更に増していました。

都会に一人暮らしを始めてまだ半年、18歳そこそこの僕には「都会の夜」の怖さを知るよしもありませんでした。
ましてや半分徹夜で注意力は散漫でした。
傘を叩く雨音だけしか耳に入らず、ずっと下を向いて歩いていると突然傘が持ち上がるじゃないですか。

「お?」と思い見上げると男が・・・オッサンが僕の傘を鷲掴みにして、僕の顔を覗き込んでいます。

心臓が止まるかと思いました。

突然の恐怖に襲われると全身が硬直するってのをこの時生まれて初めて体験しました。
オッサンは紺のジャンパーでかなり白髪の入ったぼうぼうの長い髪、50代半ばの印象でした。
傘もささずにズブ濡れで僕を睨み付けています。
その間、3~4秒でした。

えらく長く感じましたが、オッサンは手を離し雨が降る闇の中、スタスタと僕が来た方向へ去っていきました。
彼が手を離す瞬間舌打ちするような仕草をしたようにも思えます。
その後課題のことも忘れ僕はコンビニでたっぷりと1時間ほど時間を潰しました。
速攻で帰宅するのが怖かったので。

「あれはやはり俺を女だと勘違いしたんだろうな・・・」(僕は身長160無いのです)

「でももし俺が女だったらあの時どうなってたのか・・・?」

意を決して僕は帰宅することにしました。

少し遠回りですが、●●公園の入り口前を通る道で、こちらの方が大通りと街灯がある分いくらか安心だったからです。
大通りから小道へ曲がり、あとアパートまで100メートル程の距離でした。

その時です。
はっきりと聞こえました。

とても小さく、距離は多少有りそうでしたが、雨音にかき消されそうでしたが、女性の悲鳴です。
皆さんはこんな時どうすると思いますか?
男なんだから当然声の主を捜すために走り出しますか?すみません、僕はダメでした。

走ってアパートに駆け込み、買いだした食事も放り投げて布団に飛び込み震えてました。
恐怖と後悔の念で何時間も布団の中でうずくまってましたがいつの間にか寝てしまいました。
ドアを叩く音で目を覚ましました。
時間は午後1時を過ぎてました。

扉を開けるとそこには大家と・・・警官が立っていました。
朝方●●公園の散歩道で死体が発見されたとのこと。

町中の騒ぎを聞いて僕の両隣のどちらかの住人が、夜中にドタドタと大慌てで帰ってきた僕を通報したらしいのです。
心臓がバクバクと・・痛いほどに高鳴りました。

はたから見て狼狽しているのは明らかだったと思いますが・・・警官は一応一通り状況を説明した後僕の氏名や田舎の住所等を確認した後20分ほどで帰っていきました。

その後警察からは何の連絡もありません。
警官の話を聞いているうちにだんだんと落ち着きを取り戻して来たのです。
別な意味の恐怖も有りましたが、これは今もって拭えないのですが・・・。

被害者は男でした。
胸を包丁でひと突き、即死だったそうです。
その特徴は僕が昨晩出会ったオッサンと酷似していました。
僕は警官にその男と会ったことは喋りませんでした。
その後3ヶ月ほどでそのアパートから引っ越し、TVでも報道されたその事件の犯人が捕まったかどうか今も定かでは有りません。

知りたいとも思いません。
誰にもこのことを話したことは有りませんでした。