ある山歩き大会に参加した時のこと。
開会式の開かれたキャンプ場で、彼は嫌なものを見かけた。

上顎から上が失くなっている男性が、参加者の間をふらふらと歩いていた。
チェックのシャツとニッカズボンを身につけているが、明らかに生者ではなかった。
誰も気がついていない様子で、見ていて鳥肌が立ったという。

式が終わる頃、それは先輩に気がついたらしく、じっと顔?を向けてきた。
やがて下顎を揺らしながら、先輩の方に向けて歩き始めたそうだ。

彼は慌てて、大会のコースを足早に歩き出した。
しばらく先頭を歩き、小高い丘に上がって後ろを振り返った。

なだらかな丘陵になっており、スタート地点の人間が芥子粒のように小さく見える。
やがて参加者に混じって、よたよたとちっぽけな、しかし不気味な姿が現れた。
もう大会などそっちのけで、即行で家に帰ったのだという。

先輩と一緒にいると、頻繁にあたりを見回す癖があることに気がつく。
今でも彼が自分の後をついて来ていないか、心配になることがあるそうです。