ある朝、仮に洋子とします。

洋子はラジカセの留守録昨日をセットした。
夕方FMで放送される番組を留守中に録っておこうと思ったのだ。

その夜、彼女はアパートに帰ってきてから早速テープを聞こうと巻き戻して再生した。
ところが肝心の番組が録れてない。
原因はすぐ分かった。

ファンクションスイッチをFMチューナーでなく外部録音にしたまま予約をしていたのだ。
人の居ないアパートをずっと録音し続けていたのだ。
がっかりしてスイッチを切ろうとしたとき洋子はスピーカーから聞こえる妙な声に気付いて停止ボタンから指を離した。
それはか細い女の子の声のように聞こえた。
留守の部屋に声なんかするわけない。

不思議に思いながら聞いてみると、どうやら声はふたつ。
どちらも小声だがやっぱり幼い少女のような感じがする。
聞き取りにくいのだが、こんな会話だったそうだ。

・・・もっときれいにすればいいのにね。
・・・本当よね。
きれいにすればいいのにね。

彼女は最初それがなんのことだか分からなかったそうだ。
じっと耳をそばだてて聞き入ってると会話は更に続いた。

・・・ずっとこのままなのかしらね。
・・・このままじゃ嫌よね。
・・・もっときれいにすればいいのにね。
・・・本当よね。

彼女は自分の顔からじょじょに血の気が引いていくのを感じた。
ゆっくりと後ろを振り返る。
部屋の隅、壁につけるように大きな洋服ダンスが置いてある。
その上に何年か前に友達から貰った2体の少女人形がある。

タンスの縁から両足を出すように座り、人形はお互いのカオを向き合っていた。
長い時間放置されていたせいか、二つとも埃まみれだった。
煤けたようなカオをしたままそれらは互いに見つめ合っていたそうだ。