今から十数年ほど前の話。
人から聞いた話なのでうろ覚えだが。

S市で、ある通り魔事件が多発していた。
夜中一人で歩いている女性ばかりを狙い、刃物で切りつけるといった悪質なもの。

幸い、被害者のほとんどが軽傷、ひどくても命に別状は無い程度だった。
しかし、この事件最後の被害者となったA子さんは違った。
たまたまなのか、故意なのかわからないが、犯人は彼女に致命傷を負わせた。

A子さんはその日、どうしても家に帰る必要があった。
彼女には、女手一つで育てている一人息子がいて、その日は子供の誕生日だったのだ。

本来なら動けないほどの傷であるにも関わらず、A子さんは体をひきずりつつ家に帰ろうとした。
翌朝、彼女の遺体が犯行現場からおよそ300m離れた場所で見つかった。

それからというもの、夜中、一人で道を歩いていると、後ろから何かを引きずるような音が聞こえるという噂が広まった。

話の中身は、こうだ。

・音が聞こえても、けして振り返ってはならない。
・もし振り返ったら、首をナイフで切られて殺される。
・振り返らず、しばらく歩いていると声をかけられる。
・この時「おかえりなさい」と三回唱えれば、消える。
・それができなければ、やはり殺される。

余談ではあるが、この話の引き金となった通り魔事件の犯人と思われていた男が、A子さんの死んだ場所からそう遠くない場所で首を切って自殺していたそうだ。

状況から見て、自殺の線しか考えられないとのことであったが、なぜか、使用したはずのナイフは見つからなかったとのこと。
また、死体の近くには何かを引きずったような跡が見られたという・・・。