都心のとあるアパートに、男が一人暮らししていました。
男の住んでいる2階の角部屋は、「出る」と噂のあるいわく付きの部屋で。
家賃が安いにも関わらず広々としたリビングにシャワーやトイレも付いています。
霊の存在を全く信じない男にとってはこの上ない好都合の家でした。
そんなある晩、仕事で疲れきって帰ってきた男は食事もとらず布団に潜り込みそのまま寝入ってしまいました。

どれだけ眠ったでしょうか。
男は奇妙な夢にうなされていました。
暗闇の中台所で誰かがもの凄い勢いスピードでキャベツを千切りにしているのです。
なぜだか顔は見えないのですが、その荒々しい包丁をまな板にぶつける音は、人を斬るような殺気すら放つほどでした。
そんな夢を永遠と見続けたように、男はハッ!!と飛び起きました。
時計の針は朝の7時を指していました。

「なんだ夢か・・・」

汗をぬぐい、気を落ち着かせようと洗面所に顔を洗いに行こうとした時、ふいにあるものに目が留まりました。

机の上に、皿いっぱい特盛りに積まれてたキャベツの千切りが置いてあったのです。
その瞬間、男は背筋が凍りつきました。
そして初めて昨晩の出来事が夢ではなかったことに気が付いたのです。
男は飛ぶように大家のいる部屋に向かいました。

大家は以前男の住んでいた住人と仲が良かったらしく、こんな話をしてくれました。
男が来る前の2階の角部屋には若い男女の夫婦が暮らしていた。
妻は毎日帰りの遅い夫にイラ立ちながらずっとキャベツを千切りにして待っていたそうです。
その後二人は喧嘩になり、夫が妻を刺して殺害し署に連行されていったという話でした。

その話を聞いて翌日、男はアパートを後にしたそうです。