以前彼女の買い物に付き合ったときのことです。

何軒かのショップを冷やかした後、少し休もうと喫茶店を探していると、時計屋のショーウィンドウに飾ってある時計が目に付いたのです。
なかなか良いデザインで、彼女も気に入ったみたいでした。
値段もさほど高くない。
私は少し早めのバースディプレゼントとしてそれを買ってあげることにしました。

店を出ようとしたとき、ベレー帽をかぶった猫背の40代のおばさんがずかずかと入ってきました。

「あそこに飾ってあった時計はどうした!あれは私が買うはずだったんだ!」と金切り声で店員に言いました。

私の彼女は反射的にさっき買った時計を隠しました。
店員は2、3日ほど前にあなたくらいの女性が買っていったといいましたが、お金は持ってきたんだと、小銭入れのような小さな財布を見せていました。

そのおばさんはあきらめて時計を買った者へ対する呪詛(じゅそ)の言葉を吐きながら、出て行きました。
店員に聞くとベレー帽のおばさんが言っていたのは、私の買った時計で今まで何回も次はお金を持ってくるからといってはその繰り返しだったそうです。

私達はファーストフード店で休んだあと映画を見て夕食を食べに行こうと歩いていた時、自動販売機に硬貨を入れているベレー帽のおばさんを見つけました。

こちらに気付いた様子もないのですが私達は足早にその場を去り、夕食を済ませ、彼女を駅まで見送りに行きました。
途中また駅構内であのベレー帽のおばさんがいるのが見えました。
おばさんは本屋で地図のコーナーをじっと見つめているようでした。

それを見た彼女が恐がったので家まで送ることにしました。
彼女の家の最寄り駅に着くと小雨が降ってきたので傘を買って二人で住宅街を歩いていていました。

その時突然、後ろでクラクションがなりました。
振りかえるとベレー帽のおばさんが横断歩道を小走りに渡って行くのが見えました。

偶然かもしれませんが、とても怖くなり・・・次の日その時計を質屋に入れてしまいました。
買った1割にしかならなかったです。