この話は以前俺が旅先で経験した事実に基づいて書かせてもらう。
N県の温泉へ車で2泊3日の旅行へ出かけた時の話。
移動の途中で「森の巨人たち100選」と書かれた標識が突如現れた。
N県の温泉へ車で2泊3日の旅行へ出かけた時の話。
移動の途中で「森の巨人たち100選」と書かれた標識が突如現れた。
どうやら全国の国有林の中から100本選ばれた巨木の一つらしい。
特に巨木には興味の無かった俺だが、とりあえずどんなものなのか気になって、吸い込まれるようにその場に車を停めた。
車の後部座席には妻子を待たせたまま、一人で見に行くことに・・・。
入口には巨木に関するちょっとした情報が掲示されていて、それを一瞥してから緑の絨毯(じゅうたん)のような切り開かれた道を登っていく。
何度か折り返しながら500m程度進むと、巨木への道のりを示す寂しい看板が現れた。
そこから先の道は道幅がほんの50cm程度しかなく、良く見てみれば雑草がかなり大きく育っており、最近あまり人が通ったと思われる形跡もない。
「こんな細い道を進んで行くのか・・・」
その日はぐずついた天気で、すでに夕方に差し掛かる時間帯のため、辺りが薄暗くなりかけている。
でもここまで来たのだからと思い、少し迷った末に再び登り始めることにした。
途中『この地域には野生のクマが生息します』という観光案内所の言葉を思い出してビビりながら、拾った棒で適当な物を叩いて音を出しながら、残りの行程を突き進む。
しばらくして汗をかきながら、どうにか巨木まで辿り着くことが出来た。
これが100選に選ばれるほどの木なのかと思ってじょじょに近づいていく。
石碑があり樹齢1000年以上という記述を発見した。
その時、不意に「ポカーン・・・」という音が遠くで鳴り響いた。
先ほどまで俺がクマ避けに出していた音に若干似ているが、もっと力強い音だ。
「俺の他にも誰かこの森にいるのかな?」
咄嗟(とっさ)にそう考えた。
だが、音の聞こえてきた方向は今来た道とは違うようだ。
再びポカーンという音が聞こえてくる。
先ほどよりも少し方向がはっきりとした。
それは巨木を挟んだ反対側の方向から聞こえてくる。
だが、見たところ巨木の部分で道は行き止まりになっており、それ以上先には人が入れそうな道が見当たらない。
暗くて深い森がずっと先の方まで続いている。
そうこうしているうちに、また音が聞こえてくる。
しかし今度は先ほどとは別の方向から聞こえてきたようだ。
その音はまるで最初に聞こえた音に呼応するように、誰もいない森の中にこだました。
その音の余韻が消えかけた時、これまでの2つとは違う場所から「ポカーン・・・」という音が聞こえてきた。
辺りは見る見るうちに暗くなっていく。
湿った土から立ち込める霧が少し濃くなってきた。
今来たばかりの道が急速にかき消されるような錯覚にたじろいだ。
じっと聞き耳を立てる。
何かの合図だろうか?
だが、その木を叩くような音は一つ鳴ると、別の場所からまた一つ。
それが鳴り終わるとまた別の場所からまた一つという具合に、止まることなく聞こえてくる。
その音が俺のいる位置に向かってじょじょに狭められていることがわかった。
この場所は森の入口から1km以上離れているはずだ。
今から急いで引き返しても車を停めた場所まで戻るころには、完全な闇に飲み込まれてしまうだろう。
どうしてこんな時間にこんな所へ来てしまったんだろうと後悔しながら、鳥肌が立ち、嫌な汗が噴き出すのを感じた。
音はなおも範囲を狭めながら俺に近づいてくる。
もし音の主が人だとしても、どうやら5~6人ではきかないようだ。
正確な場所はわからないものの、10人程度はいそうな気がする。
俺は巨木を観察する間もなく今、来た道を急いで帰り始めることにした。
来たときに感じていたのは「この曲がり角の先にクマがいたらどうしよう?」ということだった。
しかし今は違う。
「この曲がり角の先に音を立てている相手がいたらどうしよう?」
そうした考えが頭に浮かびそうになるのを必死に振り払いながら、黙々と来た道を戻っていく。
その間も絶えることなく木を叩く音が俺に近づいてきている。
ふとある曲がり角の手前に差し掛かった時だ。
その先から物凄く嫌な気配を感じて先に進めなくなってしまった。
いや気配ではない、ほんの小さな違和感だったのかもしれない。
それとも草の擦れるようなわずかな音だろうか?
何かがいる!だが見てはいけないような気がする。
しかし、音は確実に範囲を狭めながら俺に近づいてくる。
後ろを振り返る。
数分前に自分がいた辺りから一際大きな音が聞こえてきた。
もう迷っている暇はない。
どちらにしろ狭い一本道しか無いのだ。
気合いを入れ直して曲がり角の先に歩を進める。
その瞬間、一人の高齢者が足元に手を伸ばして何かを取ろうとしている光景が目に飛び込んできた。
野球帽のような形の帽子をかぶり、狩猟の時に着るようなポケットの多いジャケットを羽織ってゆったり目のズボンを身につけている。
足元を見ると長靴のような靴を履いていてそのつま先辺りに屈んで手を伸ばし、何かを取ろうとしているのだ。
俺はびっくりした後、気を取り直し「あっ、こ、こんばんは!」と声をかけた。
顔の表情は帽子のツバの部分で全く見えない。
その高齢者は俺のかけた声に反応を示し、ゆっくりと体を起こし始めた。
そして顔が見えるかどうかというところまで立ち上がると、ビデオの特殊効果を見ているように体が薄くなりはじめ、フェードアウトしてしまったのだ・・・。
気がついたら、俺は自分の車のすぐ横の砂利道に寝かされていた。
ゴツゴツした不愉快な背中の痛みで目が覚めたのだ。
心配そうに覗き込む見知らぬ男女が俺を取り囲むように数名いた。
帰りが遅い俺を心配して車で待っていた妻が、通りがかりの地元の人を呼びとめ、俺を探してもらったのだそうだ。
この近辺では夕暮れ近い時間に巨木を見に行く人はあまりいないらしい。
時折旅行者が知らずに入り込んで、俺のように気絶した状態で見つかるらしいのだ。
俺が見に行ったのは秋ごろだったのだが、夏でも夜はかなり冷える場所らしく、見つかるのが遅ければ凍死した状態で発見されることもあると教えられた・・・。
音の正体は結局わからなかったのだが、もしかしたらその付近で亡くなった方の霊なのかもしれない・・・。
特に巨木には興味の無かった俺だが、とりあえずどんなものなのか気になって、吸い込まれるようにその場に車を停めた。
車の後部座席には妻子を待たせたまま、一人で見に行くことに・・・。
入口には巨木に関するちょっとした情報が掲示されていて、それを一瞥してから緑の絨毯(じゅうたん)のような切り開かれた道を登っていく。
何度か折り返しながら500m程度進むと、巨木への道のりを示す寂しい看板が現れた。
そこから先の道は道幅がほんの50cm程度しかなく、良く見てみれば雑草がかなり大きく育っており、最近あまり人が通ったと思われる形跡もない。
「こんな細い道を進んで行くのか・・・」
その日はぐずついた天気で、すでに夕方に差し掛かる時間帯のため、辺りが薄暗くなりかけている。
でもここまで来たのだからと思い、少し迷った末に再び登り始めることにした。
途中『この地域には野生のクマが生息します』という観光案内所の言葉を思い出してビビりながら、拾った棒で適当な物を叩いて音を出しながら、残りの行程を突き進む。
しばらくして汗をかきながら、どうにか巨木まで辿り着くことが出来た。
これが100選に選ばれるほどの木なのかと思ってじょじょに近づいていく。
石碑があり樹齢1000年以上という記述を発見した。
その時、不意に「ポカーン・・・」という音が遠くで鳴り響いた。
先ほどまで俺がクマ避けに出していた音に若干似ているが、もっと力強い音だ。
「俺の他にも誰かこの森にいるのかな?」
咄嗟(とっさ)にそう考えた。
だが、音の聞こえてきた方向は今来た道とは違うようだ。
再びポカーンという音が聞こえてくる。
先ほどよりも少し方向がはっきりとした。
それは巨木を挟んだ反対側の方向から聞こえてくる。
だが、見たところ巨木の部分で道は行き止まりになっており、それ以上先には人が入れそうな道が見当たらない。
暗くて深い森がずっと先の方まで続いている。
そうこうしているうちに、また音が聞こえてくる。
しかし今度は先ほどとは別の方向から聞こえてきたようだ。
その音はまるで最初に聞こえた音に呼応するように、誰もいない森の中にこだました。
その音の余韻が消えかけた時、これまでの2つとは違う場所から「ポカーン・・・」という音が聞こえてきた。
辺りは見る見るうちに暗くなっていく。
湿った土から立ち込める霧が少し濃くなってきた。
今来たばかりの道が急速にかき消されるような錯覚にたじろいだ。
じっと聞き耳を立てる。
何かの合図だろうか?
だが、その木を叩くような音は一つ鳴ると、別の場所からまた一つ。
それが鳴り終わるとまた別の場所からまた一つという具合に、止まることなく聞こえてくる。
その音が俺のいる位置に向かってじょじょに狭められていることがわかった。
この場所は森の入口から1km以上離れているはずだ。
今から急いで引き返しても車を停めた場所まで戻るころには、完全な闇に飲み込まれてしまうだろう。
どうしてこんな時間にこんな所へ来てしまったんだろうと後悔しながら、鳥肌が立ち、嫌な汗が噴き出すのを感じた。
音はなおも範囲を狭めながら俺に近づいてくる。
もし音の主が人だとしても、どうやら5~6人ではきかないようだ。
正確な場所はわからないものの、10人程度はいそうな気がする。
俺は巨木を観察する間もなく今、来た道を急いで帰り始めることにした。
来たときに感じていたのは「この曲がり角の先にクマがいたらどうしよう?」ということだった。
しかし今は違う。
「この曲がり角の先に音を立てている相手がいたらどうしよう?」
そうした考えが頭に浮かびそうになるのを必死に振り払いながら、黙々と来た道を戻っていく。
その間も絶えることなく木を叩く音が俺に近づいてきている。
ふとある曲がり角の手前に差し掛かった時だ。
その先から物凄く嫌な気配を感じて先に進めなくなってしまった。
いや気配ではない、ほんの小さな違和感だったのかもしれない。
それとも草の擦れるようなわずかな音だろうか?
何かがいる!だが見てはいけないような気がする。
しかし、音は確実に範囲を狭めながら俺に近づいてくる。
後ろを振り返る。
数分前に自分がいた辺りから一際大きな音が聞こえてきた。
もう迷っている暇はない。
どちらにしろ狭い一本道しか無いのだ。
気合いを入れ直して曲がり角の先に歩を進める。
その瞬間、一人の高齢者が足元に手を伸ばして何かを取ろうとしている光景が目に飛び込んできた。
野球帽のような形の帽子をかぶり、狩猟の時に着るようなポケットの多いジャケットを羽織ってゆったり目のズボンを身につけている。
足元を見ると長靴のような靴を履いていてそのつま先辺りに屈んで手を伸ばし、何かを取ろうとしているのだ。
俺はびっくりした後、気を取り直し「あっ、こ、こんばんは!」と声をかけた。
顔の表情は帽子のツバの部分で全く見えない。
その高齢者は俺のかけた声に反応を示し、ゆっくりと体を起こし始めた。
そして顔が見えるかどうかというところまで立ち上がると、ビデオの特殊効果を見ているように体が薄くなりはじめ、フェードアウトしてしまったのだ・・・。
気がついたら、俺は自分の車のすぐ横の砂利道に寝かされていた。
ゴツゴツした不愉快な背中の痛みで目が覚めたのだ。
心配そうに覗き込む見知らぬ男女が俺を取り囲むように数名いた。
帰りが遅い俺を心配して車で待っていた妻が、通りがかりの地元の人を呼びとめ、俺を探してもらったのだそうだ。
この近辺では夕暮れ近い時間に巨木を見に行く人はあまりいないらしい。
時折旅行者が知らずに入り込んで、俺のように気絶した状態で見つかるらしいのだ。
俺が見に行ったのは秋ごろだったのだが、夏でも夜はかなり冷える場所らしく、見つかるのが遅ければ凍死した状態で発見されることもあると教えられた・・・。
音の正体は結局わからなかったのだが、もしかしたらその付近で亡くなった方の霊なのかもしれない・・・。
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