この間、解体の仕事をしていて奇妙なことがあったんで書いてみるよ。
うちらは建設会社だけどその筋とも繋がっていてある程度ヤバイ仕事も受ける。
これもそんな方面からあった話で、要は古い一軒家の解体だ。
ここは地方都市なんだが、その現場はある会社の社宅のように使われていたということで、2~3年で住人が入れ替わっていたらしい。
元が蔵だったのを改築したもので、平屋でキッチンと和室二間しかなく、家具類もいっさい事前に運び出しておくということだったんで、簡単な仕事だと思ってた。
現場を見ると重機を入れるまでもなさそうだったが、費用はいくらか掛かっても構わないということだったんで、実際これはおいしい仕事だ。
ところが条件がついてたんだな。
それは、内装をはがしたら外装に移る前に床下をさらってくれという作業手順の話。
もう一つ、外部の人間を一人入れてくれということだった。
あとはその人間にあれこれ尋ねたりしないで好きなようにやらせることと、現場で見たことは口外しないこと。
作業日になって、依頼主の会社の立会人といっしょに来たのは30代くらいのスーツの男だった。
ひどく華奢(きゃしゃ)な体格をしていて色白だったんで、工事関係者ではなさそうだったが、その筋の人間にも見えない。
その男はワゴン車から大きなボストンバックを抱えて現場に入ってきて、ヘルメットの着用を断った。
まず数人の手壊しで内装の木部を外して外で分別する。
それからしっくいの壁は最後に重機でやることにして、言われたとおり畳をはがして床下を解体してしまうことにした。
男は黙って邪魔にならないよう玄関で見ていたが、4畳半を終えて6畳間にとりかかろうとしたときにボストンバックを開けて、マスクと四合瓶に入った白濁した液体、それから金箔を貼ったと思える真ん中に持ち手があって両側が尖った奇妙な道具を取り出した。
バールで床板をはがしていったが、その部屋だけかなり厚い板を使っていて、しかも他の場所より新しい。
そのとき部屋の隅の辺りを剥がしていた若い作業員が「あっ!何だこれっ」と声を上げた。
すると男がさっと近づいていって下を覗き込んだ。
自分もいってみたが、土台の土に頭蓋骨が見える。
ただし人間のではなくて動物のもののようだ。
さらに動物の口の前には白い小皿、それから気味の悪いことに頭蓋骨の30cm先のあたりに、額に入った白黒写真が下のほうを土に埋めるようにして立てかけてあった。
男はマスクをして革靴のまま床下に降りてその額を回収し、写っているほうを腹におしつけて上がってきた。
すぐにボストンバックに入れてしまったんでよくは見えなかったが、目に映ったかぎりでは、時代がかった和服の女性の全身像のようだった。
額の裏には墨で「大正十一年夏」と書かれていた。
男はもう一度床下に降りると、頭蓋骨の前の小皿に瓶の液体を注ぎ込むとマスクを外し、金色の道具をポケットに入れ、両手の指を組み合わせ聞き取れないくらい低い声で呪文のようなものを唱えだした。
それは20分ほども続いたんだが、自分らはあっけにとられたように黙って見ていただけだ。
男は最後に「フーッ」という感じで強く息を吐くと、ポケットに入れていた道具の尖った先で頭蓋骨の天辺を突いた。
長い年月でかなりもろくなっていたらしく卵の殻のように簡単に破れて穴が開いた。
男は口を開いて「これで私の領分は終了ですが、お願いがあります。この頭蓋骨の下に体の骨があるはずです。多少壊れてもかまいませんが、なるべく残さないように掘り出してください。でないとこの場所が善用できなくなります」と不可解なことを言った。
自分らはシャベルを使って丁寧に周りから掘ってみたが、驚いたことに頭だけではなく全身が埋められていたんだな。
おそらく1m以上の動物の骨が出てきた。
犬かと思ったが正確なところはわからない。
男は出てきた骨をざっと土をほろって、皿と一緒にバックから出した黒いゴミ袋に入れた。
それが終わると男は「もう二つばかりお願いがあります。骨の真上にあたる天井裏に小さな香炉があるはずです。それはいらないのでそちらで処分してください。それから今車から炭を出しますので、地ならしのときに骨のあった場所に埋めてください、お願いします。私はこれで戻りますから」と事務的に言った。
それで男は帰っていったんで、あとは屋根裏の木部とトタンをはがして重機を使って一気に仕上げる。
屋根裏からは男の言ったとおりごく普通の形の香炉が出てきたんだが、材質が緑の石製で、素人でよくわからないがヒスイというものじゃないかと思えた。
高価な品なら貰っちまおうか・・・と、一瞬思ったが、一連のことを考えると気味悪いんで廃棄処分にまわした。
これで終わりだが、後日談が二つある。
一つはこの仕事のことが後々まで気になっていたんでホントはしないほうがいいんだろうけどいろいろと探った。
わかったのは、その家は確かに会社の社宅だったんだが、それは誰でも名前を知ってる大会社で、その町には社員寮が別にある。
解体した家には主に家族連れの若手社員が入っていたそうだが、2~3年の赴任期間に、その社員自身か家族の誰かが亡くなっているということ。
もちろん犯罪性のない病気や事故で、自殺もない。
小さな子どもがトラックに轢かれた事故もあったようだ。
もう一つはこの3年後、参院選挙があったときにある保守候補の選挙事務所に出向いたとき、ばったり解体作業のときに来ていた男と出会ったこと。
男はどうやら候補の地元秘書をやっているようで、自分の顔をみるとちょっと驚いたような表情をしてから、ニヤッと笑い「へええ、この間はどうも。ご健在でしたか、これは何よりです。あの香炉は処分なさったんですね。いやあ誠実に仕事をするのが何よりで。おかしなことを考えてたらお命がなかったかもしれませんよ」と。
男は前とは違う屈託のない声でそう言うと「投票よろしくお願いします」とつけ加えた。
どうやら世の中には知ってはいけない領域があるみたいだ。
これで終わり、文章が下手でもうしわけないね。
うちらは建設会社だけどその筋とも繋がっていてある程度ヤバイ仕事も受ける。
これもそんな方面からあった話で、要は古い一軒家の解体だ。
ここは地方都市なんだが、その現場はある会社の社宅のように使われていたということで、2~3年で住人が入れ替わっていたらしい。
元が蔵だったのを改築したもので、平屋でキッチンと和室二間しかなく、家具類もいっさい事前に運び出しておくということだったんで、簡単な仕事だと思ってた。
現場を見ると重機を入れるまでもなさそうだったが、費用はいくらか掛かっても構わないということだったんで、実際これはおいしい仕事だ。
ところが条件がついてたんだな。
それは、内装をはがしたら外装に移る前に床下をさらってくれという作業手順の話。
もう一つ、外部の人間を一人入れてくれということだった。
あとはその人間にあれこれ尋ねたりしないで好きなようにやらせることと、現場で見たことは口外しないこと。
作業日になって、依頼主の会社の立会人といっしょに来たのは30代くらいのスーツの男だった。
ひどく華奢(きゃしゃ)な体格をしていて色白だったんで、工事関係者ではなさそうだったが、その筋の人間にも見えない。
その男はワゴン車から大きなボストンバックを抱えて現場に入ってきて、ヘルメットの着用を断った。
まず数人の手壊しで内装の木部を外して外で分別する。
それからしっくいの壁は最後に重機でやることにして、言われたとおり畳をはがして床下を解体してしまうことにした。
男は黙って邪魔にならないよう玄関で見ていたが、4畳半を終えて6畳間にとりかかろうとしたときにボストンバックを開けて、マスクと四合瓶に入った白濁した液体、それから金箔を貼ったと思える真ん中に持ち手があって両側が尖った奇妙な道具を取り出した。
バールで床板をはがしていったが、その部屋だけかなり厚い板を使っていて、しかも他の場所より新しい。
そのとき部屋の隅の辺りを剥がしていた若い作業員が「あっ!何だこれっ」と声を上げた。
すると男がさっと近づいていって下を覗き込んだ。
自分もいってみたが、土台の土に頭蓋骨が見える。
ただし人間のではなくて動物のもののようだ。
さらに動物の口の前には白い小皿、それから気味の悪いことに頭蓋骨の30cm先のあたりに、額に入った白黒写真が下のほうを土に埋めるようにして立てかけてあった。
男はマスクをして革靴のまま床下に降りてその額を回収し、写っているほうを腹におしつけて上がってきた。
すぐにボストンバックに入れてしまったんでよくは見えなかったが、目に映ったかぎりでは、時代がかった和服の女性の全身像のようだった。
額の裏には墨で「大正十一年夏」と書かれていた。
男はもう一度床下に降りると、頭蓋骨の前の小皿に瓶の液体を注ぎ込むとマスクを外し、金色の道具をポケットに入れ、両手の指を組み合わせ聞き取れないくらい低い声で呪文のようなものを唱えだした。
それは20分ほども続いたんだが、自分らはあっけにとられたように黙って見ていただけだ。
男は最後に「フーッ」という感じで強く息を吐くと、ポケットに入れていた道具の尖った先で頭蓋骨の天辺を突いた。
長い年月でかなりもろくなっていたらしく卵の殻のように簡単に破れて穴が開いた。
男は口を開いて「これで私の領分は終了ですが、お願いがあります。この頭蓋骨の下に体の骨があるはずです。多少壊れてもかまいませんが、なるべく残さないように掘り出してください。でないとこの場所が善用できなくなります」と不可解なことを言った。
自分らはシャベルを使って丁寧に周りから掘ってみたが、驚いたことに頭だけではなく全身が埋められていたんだな。
おそらく1m以上の動物の骨が出てきた。
犬かと思ったが正確なところはわからない。
男は出てきた骨をざっと土をほろって、皿と一緒にバックから出した黒いゴミ袋に入れた。
それが終わると男は「もう二つばかりお願いがあります。骨の真上にあたる天井裏に小さな香炉があるはずです。それはいらないのでそちらで処分してください。それから今車から炭を出しますので、地ならしのときに骨のあった場所に埋めてください、お願いします。私はこれで戻りますから」と事務的に言った。
それで男は帰っていったんで、あとは屋根裏の木部とトタンをはがして重機を使って一気に仕上げる。
屋根裏からは男の言ったとおりごく普通の形の香炉が出てきたんだが、材質が緑の石製で、素人でよくわからないがヒスイというものじゃないかと思えた。
高価な品なら貰っちまおうか・・・と、一瞬思ったが、一連のことを考えると気味悪いんで廃棄処分にまわした。
これで終わりだが、後日談が二つある。
一つはこの仕事のことが後々まで気になっていたんでホントはしないほうがいいんだろうけどいろいろと探った。
わかったのは、その家は確かに会社の社宅だったんだが、それは誰でも名前を知ってる大会社で、その町には社員寮が別にある。
解体した家には主に家族連れの若手社員が入っていたそうだが、2~3年の赴任期間に、その社員自身か家族の誰かが亡くなっているということ。
もちろん犯罪性のない病気や事故で、自殺もない。
小さな子どもがトラックに轢かれた事故もあったようだ。
もう一つはこの3年後、参院選挙があったときにある保守候補の選挙事務所に出向いたとき、ばったり解体作業のときに来ていた男と出会ったこと。
男はどうやら候補の地元秘書をやっているようで、自分の顔をみるとちょっと驚いたような表情をしてから、ニヤッと笑い「へええ、この間はどうも。ご健在でしたか、これは何よりです。あの香炉は処分なさったんですね。いやあ誠実に仕事をするのが何よりで。おかしなことを考えてたらお命がなかったかもしれませんよ」と。
男は前とは違う屈託のない声でそう言うと「投票よろしくお願いします」とつけ加えた。
どうやら世の中には知ってはいけない領域があるみたいだ。
これで終わり、文章が下手でもうしわけないね。
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