曾ばあちゃんは、中部地方の山の中の集落の出らしい。
子供の頃に両親が亡くなって、兄は奉公に出て、幼かった婆ちゃんは庄屋の家に引き取られた。
婆ちゃんは二歳年上の庄屋のお嬢さんの遊び仲間兼お付の女中になった。
それで婆ちゃんも礼儀作法や読み書きをを厳しく仕込まれたらしい。
子供の頃に両親が亡くなって、兄は奉公に出て、幼かった婆ちゃんは庄屋の家に引き取られた。
婆ちゃんは二歳年上の庄屋のお嬢さんの遊び仲間兼お付の女中になった。
それで婆ちゃんも礼儀作法や読み書きをを厳しく仕込まれたらしい。
年が近かったせいか、お嬢さんが姉のようで、お嬢さんも婆ちゃんを妹のように可愛がってくれたらしい。
婆ちゃんが今の中学2年の頃に、村に問題が起こった。
最初は村の鼻つまみ者が死んだ。
神仏を信じないで地蔵や岩に彫った神様に小便を引っ掛ける、お供え物を蹴散らす、入っちゃいけない場所に入る、天狗を見た、梢に化け物がいると言い、夕方に枝の上から大声を出す、水をかけるといった具合で、親もさじを投げて村八分状態。
そんな男が死んだので、「村では神様の祟りだ、天狗の祟りだ」という話になった。
しかし、そのうちに立て続けに、村の人が事故にあうようになった。
慣れた道で転ぶ、木から落ちる・・・という小さい事故が相次いで、村に天狗の祟りが続いていると噂がたった。
初めのうちは宥めて回る者もいたらしいが、そのうち噂が噂を呼んで話が大きくなったそうだ。
祟りを恐れてこっそり逃げ出すものも出てきた。
村では祟りを沈める方法が色々話し合われたらしい。
天狗に生贄を捧げればという者もいて、婆さんは生きた心地もしなかったらしい。
生贄といえば若い娘に決まっている・・・。
山の中の集落だから年頃の娘は少ない。
となれば身内の少ない自分が選ばれるに違いないと思っていたそうだ・・・。
話し合いの末に庄屋が金を出すからと説得して、山をいくつか越えた先の集落に婆さんの拝み屋を呼ぶことになって迎えの者が出発した。
ところが、迎えの男たちが半月経っても戻ってこない。
婆ちゃんもお嬢さんが屋敷から外に出るとじいっと見る村人もいて、気味悪くてほとんど屋敷の外に出なかったらしい。
年嵩の女中仲間も他の奉公人も、祟りの噂話をすることもなくなってしまっていた。
庄屋も顔色が優れないようなった。
婆ちゃんは、「生贄を出すことに決まったんだ。自分が生贄にされるんだ・・・」とうすうす察して、怯えたそうだ。
ただお嬢さんだけが変わらずに振舞っていたらしい。
そんなある日、お嬢さんが消えた。
朝起きて、婆ちゃんがお嬢さんを起こしに行ったらいなくなっていたそうだ。
雨戸は内側から閂がかかっていたし布団にはまだぬくもりが残っていた。
布団の上に山の中に生えている木の葉っぱが一枚落ちていた。
着物と草履は亡くなっていたが、他は全部残っていた。
大騒ぎになった。
逃げたという人もいたが、天狗が連れて行ったという人もいた。
お嬢さんが草履履きで山を越えていくなんて考えられない。
次第に天狗が浚ったんだと言う話なった・・・。
拝み屋を迎えにいった一行が戻ってきたのは、そんな頃だった。
婆ちゃんは拝み屋を一目見て震え上がったらしい。
拝み屋の婆さんは盛大な祭壇を作って、神様を拝んだそうだ。
そのときに村人一同を集め、村人一同を叱り付けた。
拝み屋婆さんによると、今回の騒動は村人の不信心から起こったことだという。
最初に男が死んだのは、本人のせいだったそうだ。
神様に罰当たりなことばかりしていたから、村の神も山の神も、男を守ってくれなくなっていたらしい。
それでとうとう、木に登ろうとして足を滑らせて落ちて死んだ。
天狗は確かにいたらしい。
元からいた天狗ではなく、大天狗(?)の使いの帰りに立ち寄った天狗で、死んだ男が無礼をして穢れてしまったので帰れなくなって、穢れを落とすまで山の中にいたらしい。
山や村の神様は怒ったのも、そのせいだそうだ。
自分が守る村人たちが天狗に無礼を働いたんで当然のことらしい。
その後の村人の怪我は、不信心の結果だという。
男の死や一連のことを神様のせいにして騒いだから、神様が怒って、守ってくれなくなっていたそうだ。
そして、庄屋の娘は神隠しだそうだ。
村人が娘に無体なことをしようとしたから、神様が娘不憫がって連れて行った。
娘は神様の領域に行ってしまったのでもう帰ってこないから、神様として祭るように言われたそうだ。
それで村人も反省して、皆で神さまに謝って、お嬢さんをお祭りして拝み屋に拝んでもらったらしい。
屋敷の中にもお嬢さんを祭る社を作って、拝んでもらったそうだ。
婆ちゃんはそれからしばらく庄屋の家で働いたそうだが、お嬢さんがいないんで兄を頼って町に出たそうだ。
そのとき庄屋からは結構な退職金(?)が出たらしい。
婆さんが結婚したときも、庄屋が色々面倒を見てくれたらしい。
婆ちゃんはお嬢さんの櫛(くし)をもらって、それをずっと拝んでたそうだ。
でも空襲のときに焼けてしまったと言ってた。
「戦争の時に故郷の村とは縁が切れてしまった」と言ってた。
婆ちゃんはその話をしながら泣いてた。
俺が婆ちゃんに、「お嬢さんを連れて行くなんてひどい神様」だといったら怒られた。
ひとつだけ教えてくれた。
あの日、お嬢さんがいなくなった日。
婆ちゃんは雨戸を開けたんだそうだが、閂(かんぬき)は降りてなかったそうだ。
だからお嬢さんは、自分から出て行ったのかもしれないと思ったそうだ。
でも布団の上の葉っぱは本当で、それは山の中にしかない木だったのは本当。
拝み屋の婆さんは全部知っているようだったので、こっそり閂(かんぬき)のことを話したらしい
そうしたら、それは黙っているように言われたそうだ。
「娘は神様が連れて行ったんだそれが一番大事なことだ」と、それを聞いて婆ちゃんは声を上げて泣いたそうだ。
これで終わりです。
曾婆ちゃんはお嬢さんを、とても優しくて綺麗な人だったと言ってボロボロ涙をこぼしていました。
婆ちゃんが今の中学2年の頃に、村に問題が起こった。
最初は村の鼻つまみ者が死んだ。
神仏を信じないで地蔵や岩に彫った神様に小便を引っ掛ける、お供え物を蹴散らす、入っちゃいけない場所に入る、天狗を見た、梢に化け物がいると言い、夕方に枝の上から大声を出す、水をかけるといった具合で、親もさじを投げて村八分状態。
そんな男が死んだので、「村では神様の祟りだ、天狗の祟りだ」という話になった。
しかし、そのうちに立て続けに、村の人が事故にあうようになった。
慣れた道で転ぶ、木から落ちる・・・という小さい事故が相次いで、村に天狗の祟りが続いていると噂がたった。
初めのうちは宥めて回る者もいたらしいが、そのうち噂が噂を呼んで話が大きくなったそうだ。
祟りを恐れてこっそり逃げ出すものも出てきた。
村では祟りを沈める方法が色々話し合われたらしい。
天狗に生贄を捧げればという者もいて、婆さんは生きた心地もしなかったらしい。
生贄といえば若い娘に決まっている・・・。
山の中の集落だから年頃の娘は少ない。
となれば身内の少ない自分が選ばれるに違いないと思っていたそうだ・・・。
話し合いの末に庄屋が金を出すからと説得して、山をいくつか越えた先の集落に婆さんの拝み屋を呼ぶことになって迎えの者が出発した。
ところが、迎えの男たちが半月経っても戻ってこない。
婆ちゃんもお嬢さんが屋敷から外に出るとじいっと見る村人もいて、気味悪くてほとんど屋敷の外に出なかったらしい。
年嵩の女中仲間も他の奉公人も、祟りの噂話をすることもなくなってしまっていた。
庄屋も顔色が優れないようなった。
婆ちゃんは、「生贄を出すことに決まったんだ。自分が生贄にされるんだ・・・」とうすうす察して、怯えたそうだ。
ただお嬢さんだけが変わらずに振舞っていたらしい。
そんなある日、お嬢さんが消えた。
朝起きて、婆ちゃんがお嬢さんを起こしに行ったらいなくなっていたそうだ。
雨戸は内側から閂がかかっていたし布団にはまだぬくもりが残っていた。
布団の上に山の中に生えている木の葉っぱが一枚落ちていた。
着物と草履は亡くなっていたが、他は全部残っていた。
大騒ぎになった。
逃げたという人もいたが、天狗が連れて行ったという人もいた。
お嬢さんが草履履きで山を越えていくなんて考えられない。
次第に天狗が浚ったんだと言う話なった・・・。
拝み屋を迎えにいった一行が戻ってきたのは、そんな頃だった。
婆ちゃんは拝み屋を一目見て震え上がったらしい。
拝み屋の婆さんは盛大な祭壇を作って、神様を拝んだそうだ。
そのときに村人一同を集め、村人一同を叱り付けた。
拝み屋婆さんによると、今回の騒動は村人の不信心から起こったことだという。
最初に男が死んだのは、本人のせいだったそうだ。
神様に罰当たりなことばかりしていたから、村の神も山の神も、男を守ってくれなくなっていたらしい。
それでとうとう、木に登ろうとして足を滑らせて落ちて死んだ。
天狗は確かにいたらしい。
元からいた天狗ではなく、大天狗(?)の使いの帰りに立ち寄った天狗で、死んだ男が無礼をして穢れてしまったので帰れなくなって、穢れを落とすまで山の中にいたらしい。
山や村の神様は怒ったのも、そのせいだそうだ。
自分が守る村人たちが天狗に無礼を働いたんで当然のことらしい。
その後の村人の怪我は、不信心の結果だという。
男の死や一連のことを神様のせいにして騒いだから、神様が怒って、守ってくれなくなっていたそうだ。
そして、庄屋の娘は神隠しだそうだ。
村人が娘に無体なことをしようとしたから、神様が娘不憫がって連れて行った。
娘は神様の領域に行ってしまったのでもう帰ってこないから、神様として祭るように言われたそうだ。
それで村人も反省して、皆で神さまに謝って、お嬢さんをお祭りして拝み屋に拝んでもらったらしい。
屋敷の中にもお嬢さんを祭る社を作って、拝んでもらったそうだ。
婆ちゃんはそれからしばらく庄屋の家で働いたそうだが、お嬢さんがいないんで兄を頼って町に出たそうだ。
そのとき庄屋からは結構な退職金(?)が出たらしい。
婆さんが結婚したときも、庄屋が色々面倒を見てくれたらしい。
婆ちゃんはお嬢さんの櫛(くし)をもらって、それをずっと拝んでたそうだ。
でも空襲のときに焼けてしまったと言ってた。
「戦争の時に故郷の村とは縁が切れてしまった」と言ってた。
婆ちゃんはその話をしながら泣いてた。
俺が婆ちゃんに、「お嬢さんを連れて行くなんてひどい神様」だといったら怒られた。
ひとつだけ教えてくれた。
あの日、お嬢さんがいなくなった日。
婆ちゃんは雨戸を開けたんだそうだが、閂(かんぬき)は降りてなかったそうだ。
だからお嬢さんは、自分から出て行ったのかもしれないと思ったそうだ。
でも布団の上の葉っぱは本当で、それは山の中にしかない木だったのは本当。
拝み屋の婆さんは全部知っているようだったので、こっそり閂(かんぬき)のことを話したらしい
そうしたら、それは黙っているように言われたそうだ。
「娘は神様が連れて行ったんだそれが一番大事なことだ」と、それを聞いて婆ちゃんは声を上げて泣いたそうだ。
これで終わりです。
曾婆ちゃんはお嬢さんを、とても優しくて綺麗な人だったと言ってボロボロ涙をこぼしていました。
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