俺が中学生のころの話だ。

俺が住んでる町には昔から『おじさん』と呼ばれてる中年のおじさんがいる。
いつ頃からいるのか、母親に聞いてみたこともあるが知らないという。
俺が『おじさん』という名称とその姿を初めて見たのは小学校3年生くらいの時で、同級生と下校中に見た。

おじさんはいつもコンビニのビニール袋を片手に持ち、にこにこしているおじさんで近所の小学生が「おじさ~ん」と呼ぶと、「はい、おかえり」と笑って答える。
いい人と同級生の間では人気(?)だったが親達はあることないこと噂していた。

どっかの国の元傭兵とか、どっかの金持ちの御嬢さんを昔誘拐した犯人だとか、根拠のないような話ばかりだった。
露骨な人は、まあ書きにくいんだが「あの人は頭に障害のある人」なんていう人もいた。
そういう大人がたくさんいた。

で、話の本題。
俺が中学生の時、ものすごい学力が落ちたんだ。
毎日のように友達と遊んでてテスト前も遊んでたから当たり前なんだけどな。
俺は親に「チャ◯ンジなら絶対やる!」と言ったんだがそれまでに4回やめていたので親は信じずに、すぐに俺を塾に放り込んだ。
どの塾もそうなのかは知らないが俺の塾は夜10時まではざらだった。
で、成績が悪くいつまでたっても帰れないやつがいた。

それは俺だ。

他の友達が帰っていくのを横目で見ながら「やっべえ・・・」と思っていたんだがまだ中学生だったため10時半に先生に帰るように言われた。(ちなみに先生は半分切れてた)

俺は、俺の自転車だけになった駐輪所を見て、もう皆はとっくの昔に帰って自由なことしてんだよなーなんてことを考えながら自転車を出してこぎ始めた。

俺が少し自転車をこいでいると塾からあまり離れていないところに例のおじさんがいた。
俺は何度かおじさんと話したことがあったので自転車でおじさんに近寄って行った。

「おじさん」と俺が話しかけると、おじさんはこちらに振り返った。
コンビニのビニール袋を手にぶら下げている。
おじさんは「ああ、おかえり」と言ってこちらに笑いかけた。
俺は「何してんの?」と言っておじさんの横まで自転車で移動して聞いてみたのだが、おじさんの視線の先を見て凍りついた。

なんて説明していいのかいまだにわからないが、赤くて丸い、大きさは学校で使うバレーボールくらいの生物?がアスファルトの上をナメクジのように這っていた。

唖然としている俺におじさんが笑いかけながら言った。

俺はその時のおじさんの顔を一生忘れられないと思う。
それほど怖い笑顔だった。

「猫。猫見てるんだ」

俺はそのあと中二なのに大泣きしながら家に帰って兄にそのことを話したんだが信じてもらえず、更に明日テストだから邪魔と蹴られた。

母親に話してしまったらまた大人の間で噂が広まってしまいおじさんが俺に何かしてくるんじゃないかと思ったから話さなかった。

まあ結局次の日、兄が母にそのことを話しても母は信じず、今となってはその話はたぶん兄も母も覚えていないんじゃないか。
こう書いてみるとあまり怖くないがその時の俺は本当に心臓が止まるかと思った。

ちなみにおじさんはそれからも見たがなるべく近寄らないようにした。
今は実家を離れ独り暮らしをしている。
今も『おじさん』はあの町に居るんだろうか。