<幽霊住宅1>
親戚の話。
叔父、叔母、そして当時すでに中学生だったミキちゃん、ケイちゃん姉妹の4人家族は、昭和50年前半に兵庫県尼崎市の町工場、倉庫が立ち並ぶ住宅密集地の築10年ほどの建売中古住宅に引っ越して住みはじめた。
見た目は白壁にグレー瓦の普通の木造モルタル2階建ての家だが、日当たりも悪く、昼間でも暗い陰気な家だった。

引っ越し一週間くらいしてから真夜中に赤ちゃんの泣き声や気味悪いうめき声が家のどこからともなく聞こえてくる。
ご近所さんかなと、外へ確認に出ても、どうも外からではないらしい。

そんなうめき声の聞こえたある日の夜中に、気味が悪いから叔父は電灯をつけようとして蛍光灯のヒモに手を伸ばすと、冷たい手に触られた。

廊下や階段で足音や物音はするのはしょっちゅうのことだった。
夜中に大きな音が廊下でした時に叔父が見に行くと、今ついたばかりのような濡れた小さい子供の足跡が、廊下にひとつだけポツンとあった。

<幽霊住宅2>
ケイちゃん(妹の方)は、雨の降る蒸し暑い梅雨の夜中に、タオルケットから出ていた脚を誰かに触られた。
見ると小さな子供の手形のようなものが脚についていて、その手形の周りが沼くさい水で濡れていたという。
怖くなったケイちゃんは、姉貴のミキちゃんの部屋に行き、ミキちゃんの布団の隣に並んで寝た。
ミキちゃんの手をしかっりと握って。

それで起こされたミキちゃんが、「どしたん?なんかあったん?」と電灯をつけるために立ち上がった。

「あれ、お姉ちゃん何で立ってるの?」

「なに?じゃ、いま私が握りしめているのは誰の手?」

明りがつくと握っていた手の姿はなかった。
ケイちゃんは恐怖で声も出なかった。
ケイちゃんはそれから25年以上たった今でも、暑い夏でさえ、寝るときには足は必ず寝具の中に隠すように入れているという。

<幽霊住宅3>
ミキちゃんが部屋で昼寝をしていると、机の引出しがひとりでに開いていくのに気づく。
そこに目をやっていると、開いた引出しから、長い髪の女性の後頭部がせりあがってくる。
3分の2くらい頭が出てきたところでその女性がゆっくりとこちらを振り返り始めた。
ほおが見え、鼻が見え、目じりが見え、「うわっ、目が合う!」と思った瞬間に目がさめた。

なんて嫌な夢だ、と思って机に目をやると、引出しはちゃんと閉まっている。

気になってその引出しを開けたら、どうやって入ったのか、B5用紙くらいの大きな土グモが中にいた。
物怖じしない性格のミキちゃんは、うちわでそのクモを追っ払った。
動き出したクモは足に何かが絡み付いて引きずっている。
よく見ると、それは明らかにミキちゃんのモノとは違う5,6本の長い女性の髪の毛だった。
本当に怖くて息が止まったらしい。

<幽霊住宅4>
その家族が引っ越しを決めた決定打は、叔母が買い物から帰ってくると玄関からキッチンに続く廊下に
女性のものと思えるすざましい量の長い髪の毛が散らばっていたことだ。
掃除をした叔母が言うには、ほぼ一人分以上の髪の毛で、毛根までついていたとのこと。
最後まで、この家族4人はおばけの姿そのものは実際には見なかった。

豪放な性格の叔父夫婦だったが1年たたずに引っ越した。
叔父はいろいろとご近所に聞いて回って家のことを調べたらしいが、こういう場合にお決まりの一家惨殺があったとか、自殺者が出たとかいうことは過去何十年にわたってなかったらしいし、そのあたりは空襲被害にあった地区でもない。
ただ、そこの家を借りる人はみな半年とたたずに引っ越すことはわかった。