現代の日本において死が最も身近にある場所は病院である。
ヒトの死が日常的にある病院では不思議な体験をする看護師さんは少なくない。
入院患者の中には尋ねて来る人もなく、一人孤独に死期を迎えようとするお年寄りも少なからず居る。
そんなお年寄りの元にお迎えが来るという話。

あるご老人の病室の前を看護師が通り掛かると、何やら会話をする声が聞こえる。

「お見舞いに来る人なんて滅多に居ないのに?」と不思議に思って病室を覗くと、ご老人だけがベッドに寝ていた。

そのご老人は独り言を言っていたわけだが、どうも誰かと会話をしているような話ぶりである。
看護師さんには気が付いていないらしく、ご老人は会話形式の独り言を続けていた。
その内容は親族に対する愚痴や恨み辛みの類であった。

看護師はさき程見たことを先輩に話すと、ご老人の多い病棟ではそういうことが時々あって、それは「お迎え」が来ていると教えてくれた。

死期が近い人の元には時々お迎えが来るらしく、それも孤独なご老人の元へ来る場合が多い。
天国からの使い、もしくは祖先の霊なのか?何者かは分からないが、あの世への旅立ちが寂しいものにならないようにお迎えが来ると言うのだ。

そして先輩曰く、そのご老人は長くないという話であった。
翌日先輩の言う通り、そのご老人はお亡くなりになった。