私はバンドマンなのですが静岡市のSというライブハウスで先日ライブがありました。
ライブ終盤、出演者によるスターリン(※バンド名です)の『仰げば尊し』をセッションするのが恒例なのですが、その日もラストナンバーは仰げば尊しでした。

ラストナンバーが終わりステージ袖に掃けると、一人の男性に話かけられました。
擦り切れたライダースに軍パン、汚いエンジニアブーツに坊主、古いタイプのパンクス、40代間近といった感じでした。

その男性は「今日はいいライブだったよ、来れてよかった。Kにもよろしく伝えておいて」と言いました。

・・・おかしいなぁと思いました。

Kさんは出演者でしたからその場にいたので何故直接言わないのか?
仲たがいしたから直接話にくいのかな?とも思いました。

私はKさんに「(前出の風貌の人が)よろしく伝えてって言ってましたよ、打ち上げ出ないで帰っちゃったみたいですけど」と伝えましたが、百人近いギャラリーの中に、その人を知る人はいませんでした。

そして今日、また皆で集まったのですが、いつも集まる居酒屋に小さなアルバムとコルクボードに張られた沢山の写真がありました。
先日のことはすっかり忘れて、この日のライブは散々だったね、とか、誰々くんこの時と比べて老けたよねとか、こいつハゲたよなぁとか他愛のない話で盛り上がってました。
と、私はその中に、その男の人を見つけたのです。

「あ!Kさん!この人!この人だったよ!」

そう言いつつも私は明らかな違和感を覚えました。

日付が十数年前の色あせた写真のその人は、なぜか私が見た時の服装や見た目の年齢が同じだったのです。

Kさんは「その人は俺にパンクを教えてくれた人だ、その人がいなかったらバンドはやってなかったよ」と言うので、「どうして直接お話しなかったんでしょうね」と私は言いましたが、Kさんは黙ったままでした。

嫌な予感がしましたがその通りでした。
その人はもう何年も前にバイク事故で亡くなっていました。
奇しくもそのライブの日は彼の命日で、そして彼が最期にステージで演奏したのは『仰げば尊し』だったそうです。
精神を病んだ揚句、「今こそ別れめ、いざさらば」この曲にメッセージを託して見通しの良い道路でバイク事故で亡くなったそうです。
自殺ではないか、と言う結論が出ていたそうですが、皆を安心させるために現れたのではないか、と言う結論になりました。

その日演奏された仰げば尊しのボーカルは3人で、内、女は私だけでしたが、後は2人だけのはずの男性ボーカルに、なぜか3人のボーカルが収録されていました。
ズタボロのライダースは今も地元バンドマンの間で代々渡り継がれているそうで、今はKさんが所有しているそうです。

霊感信じない、幽霊いないと生きて来た私ですが、怖いと言う感情は全く無く、胸が熱くなりました。