それは友人の母の体験です。

舞台は某アニメ会社の作品で出演した動物の故郷の一つです。
友人の母は以前は看護師で、まだ彼女が若い頃、県内でも山の方にある古い病院に勤務してた時の話・・・。

彼女はその日深夜に出勤することになりました。
ほとんど明かりが消えた病院の玄関で、自分の靴を履き替えようとしました。
下駄箱の指定の位置にある自分の内履きのスリッパを取ろうとしたところ、目の前にあった自分のスリッパがいつの間にか消えてしまったのです。

『あれ?おかしいな・・・』と思うと、ふとその下の段を見るとにスリッパがあるのです。

昨日帰った時に入れ間違えたのかと疑問に思いましたが、特に気にせず、またスリッパに手を伸ばしたところ、再び消えてしまいました。

『えっ!?』

驚いて、下駄箱を見回すと、少し離れた所に自分のスリッパが・・・。
わけがわからずなんとかスリッパを取ろうと手を伸ばしても、触れる前に消える。
そしてまた別の場所にスリッパが現れる・・・。

十数回繰り返したところでようやくスリッパを掴むことが出来ました。
掴めたことに逆に驚きながらも手にしたスリッパは昨日と変わりない自分の物でした。
夜勤に備えてさっきまで仮眠をとってたせいで寝ぼけたのだろうか?
不思議に思いながらも彼女はその日の夜勤を無事終えました。

そして、次の日・・・。
師長さんと申し合わせをしてるときです。

『ああ・・・そういえば、昨日夜回りの時見てたんだけど・・・』

彼女は何の話を切り出されたのか一瞬分かりませんでした。

『あなた、下駄箱のところで狸に化かされてたわよ?』

師長さんが夜回りのとき下駄箱で見た風景は、彼女が必死にスリッパを取ろうとしているその周りで狸がスリッパをひょいひょい移動している、というものだったそうです。

彼女自身は狸の姿なんてまったく気付かなかったし、化かされてるなんて思っても見なかったそうです。

その病院の裏にはこんもりした古い山があり、以前からそういう狸にまつわる話が絶えなかったそうです・・・。