家族全員がなぜかきょとんとした顔。

俺「ほらまん丸い五右衛門風呂でさスノコみたいなの踏んで入るの、覚えてない？」

姪っ子「兄ちゃんどこでそんなお風呂入ったの？」

不思議そうな妹。
両親も似たような表情で俺を眺めている。

親「何を言ってるんだお前は？」

俺「いやいやいやこの家昔はすげーボロ家だったじゃん」

じれったくなった俺はその辺にあったチラシの裏に間取りをスラスラ描く。

俺「ここが凄い狭い廊下で、その先が土間になってて土間のすぐ横が風呂場で・・・」

親「ちょっと待て」

俺「？」

父親が描きかけの空白部分を指差して言った。

親「ここには何があった？」

俺「えーと・・・井戸があってポンプが１日中ウンウン言ってた」

俺は井戸の印に丸を描いてそこからパイプを家の外に向かって伸ばした。

俺「なんか近所に住んでた鯉飼ってる人の家に売ってたとか・・・あれ？」

そこで奇妙な感覚に陥る。
スラスラ描けるほどハッキリ覚えていた記憶が描くそばからほろほろとあやふやになって行く。

親「それ誰に聞いた？」

俺「誰って、爺ちゃん・・・あっ！」

祖父は自分が生まれる前に他界していた。

親「確かに昔は五右衛門風呂だったし、井戸の水を近所に送ってた。だけどお前が生まれた年に建て替えたんだぞ？」

俺「え？あれ？」

すっかり描き上がった古い平屋の見取り図はもう知らない家になっていた。