深夜勤務が明けて、ラッシュも少し収まった山手線の中のこと。
吊革につかまったまま眠気でウトウトしていると、何やら言い合ってる声が聞こえて目が覚めた。

若い奴「だから、言ってるだろ。まったくどいつもこいつも・・・」

(うるせえな、まったく。朝っぱらから何やってんだ?)

隣に立ってるパーカー姿のロン毛の若い奴が目の前の椅子に座ってるオヤジに文句付けてるようだ。

オヤジ「こうなったらやるしかない。思い起こせば昭和36年・・・」

座ったオヤジは目をつぶったまま頷きながら言った。

無視しようと思うのだが、隣で言い合ってるから嫌でも耳に入って来る。
しょうがないので移動するか、と思った。

しかし、その時ふと気がついた。

若いロン毛はジッと窓の外を睨んでいる。

若い奴「だから、言ってるだろ。まったくどいつもこいつも・・・」

(なんだこいつ?外見ながら、しかも同じこと繰り返してねえか?)

そう気がつくと、椅子のオヤジも目をつぶったままでブツブツ言っている。

オヤジ「こうなったらやるしかない。思い起こせば昭和36年・・・」

全く噛み合わない会話を、お互いに誰に言うでもなく、喋ってるだけ。
なんと頭のイカれた男が二人、ブツブツ喋っていたんだ。

気が付くと、電車のコーナーにはそいつらと俺しか居なかった。
俺を含めた3人を、嫌な物でも見るように乗客が遠巻きに眺めていた。