小学生くらいの話。

親戚の家が辺鄙な場所にあったんだ。
裏手には山、逆かわには谷で子供の遊び場としては最高だった。

んで、谷にはよくゴミが捨てられる。
山の中を走る国道沿いにあるせいだろう。
遊びに行った時も、たまにゴミ拾いをさせられた。

結構深い谷に落ちてるゴミを掃除するのはたいへんだった。
しかし、ゴミの中で唯一「拾わなくていい」と言われたものがあった。
それは傘だった。

「どうして傘を拾わないの?」と聞くと、決まってみんな「あれはゴミじゃないから」と答える。

ごみじゃない?

どう見たって汚い傘じゃないか・・・と思い、親戚の叔父さんに詳しく聞いてみた。

叔父さん曰く、「あれは谷の置き傘だ」と。

誰が始めたのかは分からないが、谷に傘を置いておく風習があるらしい。

「どうして?」と聞くと、「谷の住人がつかうんだよ。言ってみれば、この世とあの世の間にいるもんだな。谷にはそいつらが住んでる。んで、雨嫌いだから、傘がないと濡れて怒っちゃうんだと。そしたらよくないことが起こる。だから傘を置いてるんだ」

「よくないことって?」

「よくは分からん。でも、鵺が鳴く夜は人が死ぬっていうだろう?そんな感じの言い伝えだよ。谷が濡れる日は災いが起こる」

谷ではよく遊んだけど、谷の住人に会うことはなかった。
でも、ポツンと傘がある光景は異様だったと覚えている。

結局、その谷も開発のため埋め立てられて、いまは運動公園になっている。
谷の住人たちはどこにいったのか。
もしかしたら埋め立てられた場所にまだいて、もう雨に濡れることはないと喜んでいるのかもしれない。