小学校低学年の時の話。

その日は、父が出張、母も用事で出かけていたため、兄と二人で留守番していた。
晩御飯は近所に住むI君のお母さんが持ってきてくれることになっていた。
6時頃になると晩御飯が待ち遠しく、兄に「I君のお母さん。まだ来ないかな?」と何度も聞く私。

そしたら兄が「よし。100数えよう。そしたらI君のお母さんが来るよ」と言い、嘘とわかっていたがなんとなく面白そうだったので数えることにした。

私「いーち、にー」

兄「今、I君のお母さんが家を出た」

私「はーち、きゅーう」

兄「I君のお母さんがタバコ屋の角を曲がって大通りに出た」

私「二十五、二十六」

兄「八百屋の前を歩いている」

私「三十九、四十」

兄「銀行の前を今通り過ぎた」

私「六十一、六十二」

兄「お茶屋さんの角を曲がった」

私「八十一、八十二」

兄「四つ角を曲がって家に向かってる!」

私「八十九、九十」

兄「家まであと少し」

私「九十五、九十六」

兄「今、玄関の前!」

私「九十九」

兄「引き戸に手を掛けた!」

私「ひゃーく!」

その瞬間ガラガラと引き戸が開く音がして、「こんなことってあるんだね!」と兄と話しながら玄関に向かった。

ところが玄関には誰もいない・・・。

それどころか鍵が掛かっていたので引き戸が開くはずがない。
私はわんわん泣き、兄と布団の中でぶるぶる震えていた。

結局I君のお母さんが来たのはそれから随分経った午後7時過ぎだったと記憶している。

その家には今も両親が住んでいるが、不思議なことが起きたのはその一度きり。
あれはいったい何だったんだろう。