父方の祖父が亡くなった時、2000年の話。

じいさんは俺が生まれる前から心臓に持病を持っており、苦しんだ末に脳梗塞を引き起こして最後は眠るようだったらしい。
当時俺は大学生で実家を離れて県外で一人暮らしをしていた。
半年くらい前から長くは持たないと聞かされていたので、心の準備はできていたのだが、やはりショックだった。

じいさんは読書が趣味で、「谷崎潤一郎」を愛読していた。
俺も読書は好きだったから、よくじいさんに谷崎を借りて読んでいた。
古い全集で、旧仮名遣いで、じいさんの手垢がついてる本。
そんなレトロで時代がかった雰囲気が好きだった。

ばあさんが棺おけに「細雪」を一緒に入れた。
谷崎の中でも一番好きだったからだ。
俺は形見分けとして「痴人の愛」を貰った。

じいさんが亡くなって半年ほどたったころ、夜寝付けなっかった俺は「痴人の愛」を読んだ。
すでに何度も読んでるから、適当に流していたのだが、読み終えるころにはだいぶ明るくなっていた。
そろそろ寝ようと思っていたところに、親父から電話があり、ばあさんが亡くなったことを知らされた。
寝たまま死んだようで、いわゆる大往生だ。
ばあさんは叔父夫婦と住んでいたのだが、朝、叔母さんが様子を見にいったいたら冷たくなっていたそうだ。

それからまたしばらくして、「そろそろじいさんの命日だなあ」なんて思いながら、また「痴人の愛」を読んだ。
今度はしっかりと時間をかけて読んだ。
読み終わってから2時間ほどたった時、また親父から電話があった。
叔父さんが心臓発作で亡くなった。
俺はばあさんの時のことを思い出したが、偶然だと思った。

偶然だと思いながらも、俺はその偶然性を証明したくて何度も「痴人の愛」を読んだ。
読み終わった後、数時間たったころに電話が鳴った。

簡単に纏めると次のようになる。

まずはばあさん(老衰)。
次に叔父さん(心臓発作)。
いとこの長男(叔父の娘の子供、交通事故)。
別のいとこの子供(叔父の息子の子供、流産)。
叔母さん(叔父の妹、親父の姉、脳梗塞)。
最後に親父(心不全)。

これらの親戚が1年半ほどの間に急死した。
もう偶然とは思えなかった。

父方の親戚は俺ら兄弟といとこ数人と叔母(叔父の妻)しか残っていない。
俺が「痴人の愛」を読むたびに親戚が死ぬ。
俺はじいさんにもらった「痴人の愛」を本棚の奥に普段見えないように置いてある。
捨てたり、焼いたりも考えたが、どうしようもなく怖くてできない。
一応お払いはしてもらった。

このストレスで10キロくらいやせた。

じいさん、ばあさん、叔父夫婦が住んでいた大きな屋敷には今、叔母さんが一人寂しく生活している。
そういえば、じいさんはこの叔母さんと仲が悪かったんだ。