学生時代の夏休みに某ショッピングモールでバイトしてたんだが、先輩に変な物が出るという話を聞いた。
“それ”は職場の人たちには「ルビーさん」と呼ばれてて。
年に何日か決まって夜、閉店後に現れるそうだ。

俺「フィリピーナっすか」

先輩「バーカ、人間かどうかも怪しいやつだ。見た目はあれの赤いやつ」

先輩はそう言ってアステカかマヤの遺跡の出土品の展示イベントのチラシに載ってた緑色のヒスイの仮面を指差した。

先輩の話だと、一人で閉店後の作業をしていると生ぬるい空気をふと感じるらしい。
するといきなり近くに目と口を剥いた全身赤い宝石のような光沢に覆われた奴が立っているそうだ。
特に襲ってきたりとかは無く、じきにどこかに行ってしまうらしい。
後を追いかけた警備員もいたらしいが、ちょっと視界から消えるともうどこにもいなかったそうだ。

ルビーさんが厄介なのは数日間目撃されたあと、絶対にボヤ騒ぎがおきるらしい。

全く火の気が無いところから出火するわけじゃなく、目撃されたポイント近くの例えばマッチやライター、ロウソクや線香、カセットボンベとかがボヤを起こすらしい。

もちろん誰か従業員の仕業ではない・・・。
だけどルビーさんが目撃されてもそういった火の元を無くしてしまうといった対応策はとらなかった。
というか「取ってはいけない」とずっと言われてきたらしい。
ただボヤが大きくならないよう起こったらすぐに消せるようにとだけしか言われなかったそうな。

ただ、何代か前の店長は「そんなことではいつか全焼してしまう!」と、ルビーさんが目撃されたときに火の元になりそうなものを全て店から数キロ離れた倉庫に移し、自ら毎日閉店後の警備に当たったそうだ。

それからもポツポツと目撃例はあがっていたんだが、遂に店長が自分で目撃したらしく、少し興奮気味に「ボヤを起こせるもんなら起こしてみろ!!」とルビーさんに言ったそう。

ただ店長が見たルビーさんは全身が黒くゴツゴツしていて、「ルビーさんと言うよりも石炭さんか、溶岩さんだな」と言っていたそうだ。

そして、次の日に事件は起こった。

いつも通りの1日が終わり閉店を迎えて作業もだいぶ終わりになったころ、従業員たちが店長の姿が見えないと騒ぎだしたそうだ。
先輩も従業員や警備員と一緒に探し回っていたらいきなり非常ベルが鳴り響いた。
そりゃあ心臓が止まりそうなくらい驚いたそうだ。

その時店にいた全員が例のボヤだなとピンときて警報機を調べ火元のあたりに消火器を持って行ったら、黒こげのマネキンが転がっていた・・・。
少なくともはじめ見たときは皆がそう思ったそうだ。

「そのマネキンってまさか・・・」と先輩に聞いたらやはり黒こげになった人間だったそうで、腕時計と歯型から店長だと判明したらしい。

火元もわからず、全身が焼けたその状態から結局は焼身自殺として片付けられたそうだ。

数日経って先輩が古株の警備員と店で事後処理をしていたら警備員がボソッとルビーさんについて教えてくれたらしい。

警備員「あいつはいつも熱さに苦しんでいる、なぜかはわからんが、体の熱を逃がして楽になるためにボヤを起こすそうだ。だから供物という意味でも火元になるものを残しておかなければならない」

警備員「店長が見た黒くなったルビーさんは全身を焦がし、苦しんで、その原因になった店長に恨み半分で訴えたんじゃないか」

警備員「遂に苦しみに耐えかねて店長を燃やすことで楽になろうとしたんじゃないか」

ただその警備員も先輩から代々教えてもらって来たものなので、ルビーさんが何かは知らなかったそうだ。

この話を俺が思い出したのは、この前先輩と久しぶりに会って、食事がてらこの話をしたから。

「まだ出るんですか」と聞いたら「お前が辞めてから一回でた、ライターが燃えてたよ」とのこと。
先輩も数回見てるんだが、曰わくあれは人間のなれの果てではないか思うらし。
というのもルビーさんが出る前兆の生ぬるい空気が元店長の焼死体を見つけたときの死体が放つ空気にそっくりだから、あいつも昔、火で死んだ人じゃないかと言っていた。

6月から新しい店長が来たらしいが、ルビーさん対策にマジで取り組むらしい。
その店長はルビーさん自体は昔から言われてるので存在は否定はしないとのこと。
だがボヤを何もしないで起こってから何かをするのはバカげていると、花火やライターなどを全て一カ所にあつめずっと交代で見張るそうだ。

先輩には「お祓いとかそういったことに詳しい知り合いいない?」と頼まれた。
先輩は夜の仕事が多いしまた焼死体を見るのは絶対嫌らしい。