小さな出来事なのですが、私が中学校の時です。

違うクラスのOさんと友達になり、学校から近い彼女の家に寄り道をしていくことになったのです。
古い平屋で昭和50年代の横浜ではそれほど珍しいものではありませんでした。
彼女の部屋に入る前に仏壇のある和室でジュースを出され、Oさんが部屋を片づけるまで、そこで待つことになり、しばらくその部屋を見回したりジュースを飲んだりしていました。

その時、ふと仏壇に置かれている数枚の写真が目に入ったのです。
小さな写真立てに入れられたそれらは、どの写真も数人が椅子に座って写っている記念写真のようでした。
背景には何も無く、写真屋で撮ったとおぼしきものばかり。
しかし、その中心にいた人物の周りには大量の人間の顔がこちらを向いて写っていたのです。
恐怖するよりも、なぜこんなに顔が?と私はしげしげと眺め、あまりにも堂々と飾られていたせいか、心霊写真と思わず、どういう写真なのだろう??と不思議に思うばかりでした。

しばらくしてOさんがやってきて、仏壇の前の私を見て不審そうに「何してるの?」と声をかけてきました。

私「沢山写真があるなあって思って・・・ご先祖の人の写真?」

Oさん「うん。これはね、おじいちゃんで・・・」

彼女は写真の説明を始めました。
しかし、真ん中にいる『被写体』の説明ばかりです。
私はなんとなく、周りの人のことは聞いてはいけないような気がして、それを聞くことはできませんでした。

その後、あまり長居をせずに帰宅したように思います。
何をして遊んだか覚えてません。
一刻も早くここから出たいとしか頭になかったのです。

家に着いてから恐怖心というものが沸いてきました。
あれがいわゆる心霊写真というものか?
やっとその発想に辿り着き、同時に何故そんなものを仏壇に飾っていたのか?
そして・・・それが私にしか見えていなかったとしたらどうしよう・・・。
それは私が霊能力があるとかいうのではなく、私の頭がおかしくて見せた幻だったらどうしよう・・・といった気持ちが強くなり、誰にも言えないままでした。

あれから30年。
私の記憶の中には無数の顔が浮いていたモノクロ写真は鮮やかに焼き付いています。