学生で新聞配達をやっているのだが、去年の今頃に体験したこと。

朝、店に行くと店長から「こいつ今日の朝刊から配ってやって」と住所と名前が書いた紙を渡された。
昨日、拡張員(セールスマンみたいなもの)が契約してきたらしく、俺は地図で調べるのめんどくさいな、と思いながらも仕事だからと納得しといた。

で、配達の途中にそいつの家があるようなので、近くにバイクを置き、朝刊と自分で書いた地図を持って家を探してみたけど、なかなか見つからない。
3分くらい歩き回っていると暗くて見えなかったが「◯◯」という表札だけがあって、そこから林の中に道が続いていた。
その日は雨が降っていて、暗い林の中に入っていくのは嫌だったがやはり仕事だから、俺はその道に入っていった。

ちょっと歩くと簡単に家は見つかった。
その家はなんか気持ち悪かった。
例えるなら「となりのトトロ」のサツキの住んでいた家の凶悪バージョンとでも言おうか・・・。
俺はさっさと配ってバイクに戻ろうとポスト(郵便ポストみたいに足がついてるやつだった)に新聞を入れようとした。
でも入らなかった。
入れ口が動かないのだ。
よく見ると年季の入ったチラシやら新聞やらが雨にぬれてパンパンになっていた。

どうしたものか・・・。
途方にくれていると縁側(窓側?)に誰かいるようだ。
ガサゴソしてたから起こしてしまったのかとも思って、謝りがてら、新聞を渡そうと縁側に近寄った。
見るとちゃぶ台におばさんが座っているようだ。

俺「おはようございま~す。起こしちゃいましたか?」

俺はできるだけ明るく言った。
本当はそんな気分じゃなかったが、一応相手は客だ。
おばさんはニコニコ笑っている。

俺「契約どうもありがとうございます~。よろしくお願いしま~す」

いつもの社交辞令みたいなものを言っておばさんのほうに新聞を差し出した。
おばさんはニコニコ笑っている。
新聞を受け取る気配はない。

俺「あの・・・新聞ですけど・・・」

俺は気持ち悪くなってきた。
そのおばさんは真っ暗な部屋の中に座っているのだ。
起きたばっかでまだ明かりを点けてない、と言う雰囲気ではない。

俺はもう一度新聞を差し出す・・・。
しかし、おばさんは受け取らない・・・。

というよりおばさんは動かない。
足でも悪いのか?とも思ったが手を伸ばせば届く位置まで新聞を差し出していると言うのに・・・。
ラチがあかないと思った俺は「新聞ここに置いときますね」と言っておばさんの手の届くところに新聞を置いてバイクに戻ろうとした。

その時!

「バターン!」

大きな音がその家の2階から聞こえた。
下で話してるもんだから上に住んでる奴でも起こしてしまったか?と思って、おばさんの顔を見返して見るとおばさんが薄目を開けて笑っている。
そして雨音に混じって2階を移動する足音が聞こえてくる。
俺は息が詰まったような感覚に襲われて、その場から動けなかった。

不意に足音がやんで「ザーッ・・・」という雨音だけになった。

次の瞬間!

「ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!!」

子供が階段を駆け下りるような、そんなでかい音を立てて何かが1階に降りてきた。
その音を聴いた瞬間、俺は後ろも振り向かず逃げた。

幸い何かが追ってくるようなことはなかった。

そんなことがあってももちろん夕刊は配らなきゃいけない。
さえない気持ちのまま学校から帰って店に行くと店長が「あそこの家は配らなくていい」とのこと。

なぜ?

店長に理由を聞くと、その家に電話をしたら「この番号は現在・・・」とお決まりのアナウンスが流れて、契約した拡張員に問いただしたところ、なんとノルマを達成するために偽の契約書を書いたとのこと。

その日の夕刊は雨も止んでいて、配らなくていいと言われた嬉しさもあってその家を見に行ってみた。

目を疑った・・・。

もう廃墟だったよ。
誰も住んでないって一発でわかった。
新聞はそのままだった。
好奇心から家の中に入ってみたが、長い間雨風に晒されたせいか家の中も土やら、雨の跡やらひどかった。
2階も見てみようと階段をあがろうとしたとき足元を見たら、新しい足跡があったので2階に行くのはやめといた。

もしかしたら霊でもなんでもない体験かもしれないが、自分としては“あの”階段を下りるときの音が聞こえたとき死ぬかと思った。