漫画みたいな幽霊話を。
発端は友人と自分がそれぞれ自活を反対する実家からいっせーのせ、で飛び出して同じアパートの違う部屋で暮らし始めたことだった。
そのアパートは激安で狭い三角形の土地に無理矢理立てたことが見え見えの台形の建物。
ワンルームな上に当時築30年、外壁だけ塗り直して中は古いままだった。
家賃は2万円ぽっきり。
部屋はほんとは6部屋あったのだが、なぜか4部屋しか募集しておらず、残り2部屋はしばらく空き部屋だった。
というかそもそも4部屋をいっせーのせ、で募集するのもよく考えたら謎だった。
そんなに古いアパートで外壁塗っただけなら前からの住人が引き続き住んでてもおかしくない。
しかし、なぜかたぶん住人をいっせーのせ、で退去させて、それから募集をかけたのではないかと後から思った。
発端は友人と自分がそれぞれ自活を反対する実家からいっせーのせ、で飛び出して同じアパートの違う部屋で暮らし始めたことだった。
そのアパートは激安で狭い三角形の土地に無理矢理立てたことが見え見えの台形の建物。
ワンルームな上に当時築30年、外壁だけ塗り直して中は古いままだった。
家賃は2万円ぽっきり。
部屋はほんとは6部屋あったのだが、なぜか4部屋しか募集しておらず、残り2部屋はしばらく空き部屋だった。
というかそもそも4部屋をいっせーのせ、で募集するのもよく考えたら謎だった。
そんなに古いアパートで外壁塗っただけなら前からの住人が引き続き住んでてもおかしくない。
しかし、なぜかたぶん住人をいっせーのせ、で退去させて、それから募集をかけたのではないかと後から思った。
後で気になって空き部屋になっている2つのうちの1つをこっそりポストから覗き込んでみたら、部屋の中がぐちゃぐちゃに物が散乱したまま放置されていて、ぞっとした。
しばらく放置された後にその部屋は片付けられたらしいが、入居者が現れたかどうか記憶にない。
とにもかくにも安いことは確かなので、自分は部屋が台形なのも“ある意味”面白いかと思って気にしなかったのだが。
いっせーのせ、で実家を出た友人Tは隣の部屋で、部屋はまともに長方形で、少し広かった。
だからよく自分の方が友人の部屋に遊びに行った。
二人とも話し出すとなかなか止まらず、よく夜明けまで話し込んでいた。
隣が競馬場だったので、ふわりふわりと馬の朝のトレーニングをする影が朝もや越しに窓に映り込む不思議な光景を時々見た。
とにかく空が明るんで来るまで話し込んで、それから死んだようにごろ寝することもたびたびだった。
しかし、寝ている時に微かに覚えているのが、ぱたぱた、ぱたぱたと子供の走る足音と、足が頭上を通過する時の風圧で自分の髪が多少揺れているのを知覚しつつ、「うるさいなあ・・・しかも人の頭跨ぎやがって失礼なガキだなあ・・・」と、うすぼんやり思ったことが何度かあった。
その時は夢だろうと思ってたんだけどね。
そのうち、Tの部屋で話し込んでる最中にTのCDラジカセが何の前触れもなく電源が落ちたり、自分の部屋でもCDラジカセのトレイが(聞いている最中に)いきなり開いたりといったことが何度か起きた。
実家で今まで使ってきててそんな現象にあったことは一度もないラジカセが両方とも同時に似たような現象を起こした・・・。
そして二人の部屋で相次いで、それぞれのトイレの水を流すとずっと流れっぱなしになって止まらなくなったので、元栓から閉めるようになった。
これは設備が古いせいかもしれない、が、ラジカセの件もあったので、ちょっと試しに部屋の隅に盛り塩をしたらトイレの不具合が多少直ったりした。
さらに、ややしばらくして、自分の親知らずがだんだん腫れてきて、口が開かなくなってきた。
あまりに痛いので、固形物を口にすることもできずカロリーメイトだけでしばらく生き延びた。
しかし我慢できずに病院に行ったらやばかった。
「入院して下さい」
「へっ?今すぐですか?」
「今すぐです。カロリーメイトだけでは全然駄目です」
そうして2週間ほど入院を余儀なくされたと思う。
手術、抜糸、点滴、暇を持て余す、と自分が病人のノルマをこなしていると、Tが毎日来てくれてまた話し込んだりした。
その話の中で、「最近あまり眠れない」というTの言葉もあったような気もしたが、その時は深く気にも留めていなかった。
退院してからまた、休日前には夜明けまで話し込む日々が続いた。
話の中でまたTが「眠れない・・・」という話が出てきた。
寝入りばなに、どこか暗いところに引っ張られて行って、そのままどこかに連れて行かれそうになる、というのだ。
それが職場の昼休みの昼寝でも同じで、寝入りばなに何もない、真っ暗な虚空に引っ張られていくという。
しかも、どこからが声がすると言う・・・。
「身辺整理しておけ・・・」
そんな言葉が、老若男女の区別も付かない声で聞こえたらしい。
おかげで眠れないという。
ある時は同じく真っ暗な虚空に引っ張り込まれてポッカリと浮かんでいて、恐くて冷や汗をかいていると、亡くなったTの祖母の声がして、子供の頃のように「Tちゃん、Tちゃん・・・」と呼ばれて、それから明るい方に戻ってきた(目が覚めた)ということもあったという。
それからしばらく同じ現象に悩まされていたのだが、ある日職場で昼寝してると、寝っ転がっている床から手足が伸びてきて、肩口には顎を乗せられて、誰かに『ぺたぺたぺたぺた』と触られた、と言う。
床であるはずの下方から子供のような小さな人型のものがしがみついて来るような形だったと言う。
Tは大層気味悪がっていた。
その頃はもう夜明けまで語るのもさすがに辛いので、普通に夜寝ていた。
しかし、ふとした折に不眠より先に便秘にまず悩まされていると言う話を聞いた時、どういう風に話が流れたのかは記憶にないが「なんだ、不眠っても便秘のせいやん」と自分は笑い飛ばしてしまった。
もともとTの変な現象が自分にはあまりピンと来ていなかったので、あっさり笑い飛ばしたのだ。
それからすぐTの大学時代の友人が結婚するので、Tは式に招待された。
少々遠方で泊まり込みでの出席になるので、ついでにというか好奇心からというか、自分がTの部屋にその間泊まってみることにした。
もしかすると、自分も何らかの現象に遭遇するかもしれない・・・。
しかしもちろん寝入りばなに虚空に引き込まれる、なんてことはその時点では全く信じていなかった。
が、・・・早速来てしまった。
今まで霊現象なんてものは見える人にしか見えないと思っていて、少なくとも自分はまだかつてそれに類する経験はしたことなどなかったにも拘らず、Tの今までの話と寸分違わぬ現象に遭遇した。
寝入りばなに、ふと気が付くと布団に寝ているはずの自分が真っ暗な虚空にぽかりと浮かんでいた。
漆黒の闇、というのはこういうものかと思った。
よくよく考えるとあり得ないのだが、一筋の光源もないのだ。
それなのに自分が虚空に浮かんでることはわかるという。
光源がないのにそれを視認できるというのはおかしな話だ。
しかも体が動かない。
これが噂の金縛りか?目もろくに上手く開けられなかった。
その頃自分はあまり両親に近しい感情を持てなくて、それで実家を飛び出すことになったのだが、自分が生まれる半年前に癌で亡くなったひいじいさんが自分が生まれることを大層楽しみにしていた、という話をある時聞いて以来、両親よりも会ったこともないひいじいさんをリスペクトしていたところがあった。
単に全開で甘えられる対象が欲しかっただけ、という甘えだとは思うのだが・・・。
「ひいじいさん、助けてくれよう」
そう思いながら、一生懸命不動明王と阿弥陀如来の真言をぐるぐるぐるぐる心の中で唱えていた。
すると、それまで動かなかった体が、現実にはあり得ない速度でぐるん、と反転してシュタッ!と起き上がってしまった。
頭をてこの支点にしてぐるん、と回った感じだ。
この時の反転して起き上がって片膝ついたポーズがまるで漫画でカッコつけてるヒーローみたいで、後から思い返すと非常に恥ずかしかった。
さらに漫画チックな展開は続く。
反転して振り向いたら虚空の先2、3m位のところに子供が横向きに立っていた。
前述だが部屋は狭く、枕から壁までの距離は1mもなかったと思うのだが、壁も部屋も何もかも見えない虚空に、壁があるはずの位置よりもさらに向こうにその子供はいた。
日焼けで褐色の細い足が半ズボンから出ていたが、ありがちなことにその先の足首が視認できなかったが、上半身は白と薄緑のツートンカラーのトレーナーだった。
横向きに立っていて、しかし目だけをじろりとこちらに向けて立っていて、通常現実に子供がするとは思えない悪意に満ちた目つきだった。
ねめつける、と言う表現がピッタリだった。
なぜか「こいつは5歳だ!」という声が頭の中で鳴り響いた。
<続く>
しばらく放置された後にその部屋は片付けられたらしいが、入居者が現れたかどうか記憶にない。
とにもかくにも安いことは確かなので、自分は部屋が台形なのも“ある意味”面白いかと思って気にしなかったのだが。
いっせーのせ、で実家を出た友人Tは隣の部屋で、部屋はまともに長方形で、少し広かった。
だからよく自分の方が友人の部屋に遊びに行った。
二人とも話し出すとなかなか止まらず、よく夜明けまで話し込んでいた。
隣が競馬場だったので、ふわりふわりと馬の朝のトレーニングをする影が朝もや越しに窓に映り込む不思議な光景を時々見た。
とにかく空が明るんで来るまで話し込んで、それから死んだようにごろ寝することもたびたびだった。
しかし、寝ている時に微かに覚えているのが、ぱたぱた、ぱたぱたと子供の走る足音と、足が頭上を通過する時の風圧で自分の髪が多少揺れているのを知覚しつつ、「うるさいなあ・・・しかも人の頭跨ぎやがって失礼なガキだなあ・・・」と、うすぼんやり思ったことが何度かあった。
その時は夢だろうと思ってたんだけどね。
そのうち、Tの部屋で話し込んでる最中にTのCDラジカセが何の前触れもなく電源が落ちたり、自分の部屋でもCDラジカセのトレイが(聞いている最中に)いきなり開いたりといったことが何度か起きた。
実家で今まで使ってきててそんな現象にあったことは一度もないラジカセが両方とも同時に似たような現象を起こした・・・。
そして二人の部屋で相次いで、それぞれのトイレの水を流すとずっと流れっぱなしになって止まらなくなったので、元栓から閉めるようになった。
これは設備が古いせいかもしれない、が、ラジカセの件もあったので、ちょっと試しに部屋の隅に盛り塩をしたらトイレの不具合が多少直ったりした。
さらに、ややしばらくして、自分の親知らずがだんだん腫れてきて、口が開かなくなってきた。
あまりに痛いので、固形物を口にすることもできずカロリーメイトだけでしばらく生き延びた。
しかし我慢できずに病院に行ったらやばかった。
「入院して下さい」
「へっ?今すぐですか?」
「今すぐです。カロリーメイトだけでは全然駄目です」
そうして2週間ほど入院を余儀なくされたと思う。
手術、抜糸、点滴、暇を持て余す、と自分が病人のノルマをこなしていると、Tが毎日来てくれてまた話し込んだりした。
その話の中で、「最近あまり眠れない」というTの言葉もあったような気もしたが、その時は深く気にも留めていなかった。
退院してからまた、休日前には夜明けまで話し込む日々が続いた。
話の中でまたTが「眠れない・・・」という話が出てきた。
寝入りばなに、どこか暗いところに引っ張られて行って、そのままどこかに連れて行かれそうになる、というのだ。
それが職場の昼休みの昼寝でも同じで、寝入りばなに何もない、真っ暗な虚空に引っ張られていくという。
しかも、どこからが声がすると言う・・・。
「身辺整理しておけ・・・」
そんな言葉が、老若男女の区別も付かない声で聞こえたらしい。
おかげで眠れないという。
ある時は同じく真っ暗な虚空に引っ張り込まれてポッカリと浮かんでいて、恐くて冷や汗をかいていると、亡くなったTの祖母の声がして、子供の頃のように「Tちゃん、Tちゃん・・・」と呼ばれて、それから明るい方に戻ってきた(目が覚めた)ということもあったという。
それからしばらく同じ現象に悩まされていたのだが、ある日職場で昼寝してると、寝っ転がっている床から手足が伸びてきて、肩口には顎を乗せられて、誰かに『ぺたぺたぺたぺた』と触られた、と言う。
床であるはずの下方から子供のような小さな人型のものがしがみついて来るような形だったと言う。
Tは大層気味悪がっていた。
その頃はもう夜明けまで語るのもさすがに辛いので、普通に夜寝ていた。
しかし、ふとした折に不眠より先に便秘にまず悩まされていると言う話を聞いた時、どういう風に話が流れたのかは記憶にないが「なんだ、不眠っても便秘のせいやん」と自分は笑い飛ばしてしまった。
もともとTの変な現象が自分にはあまりピンと来ていなかったので、あっさり笑い飛ばしたのだ。
それからすぐTの大学時代の友人が結婚するので、Tは式に招待された。
少々遠方で泊まり込みでの出席になるので、ついでにというか好奇心からというか、自分がTの部屋にその間泊まってみることにした。
もしかすると、自分も何らかの現象に遭遇するかもしれない・・・。
しかしもちろん寝入りばなに虚空に引き込まれる、なんてことはその時点では全く信じていなかった。
が、・・・早速来てしまった。
今まで霊現象なんてものは見える人にしか見えないと思っていて、少なくとも自分はまだかつてそれに類する経験はしたことなどなかったにも拘らず、Tの今までの話と寸分違わぬ現象に遭遇した。
寝入りばなに、ふと気が付くと布団に寝ているはずの自分が真っ暗な虚空にぽかりと浮かんでいた。
漆黒の闇、というのはこういうものかと思った。
よくよく考えるとあり得ないのだが、一筋の光源もないのだ。
それなのに自分が虚空に浮かんでることはわかるという。
光源がないのにそれを視認できるというのはおかしな話だ。
しかも体が動かない。
これが噂の金縛りか?目もろくに上手く開けられなかった。
その頃自分はあまり両親に近しい感情を持てなくて、それで実家を飛び出すことになったのだが、自分が生まれる半年前に癌で亡くなったひいじいさんが自分が生まれることを大層楽しみにしていた、という話をある時聞いて以来、両親よりも会ったこともないひいじいさんをリスペクトしていたところがあった。
単に全開で甘えられる対象が欲しかっただけ、という甘えだとは思うのだが・・・。
「ひいじいさん、助けてくれよう」
そう思いながら、一生懸命不動明王と阿弥陀如来の真言をぐるぐるぐるぐる心の中で唱えていた。
すると、それまで動かなかった体が、現実にはあり得ない速度でぐるん、と反転してシュタッ!と起き上がってしまった。
頭をてこの支点にしてぐるん、と回った感じだ。
この時の反転して起き上がって片膝ついたポーズがまるで漫画でカッコつけてるヒーローみたいで、後から思い返すと非常に恥ずかしかった。
さらに漫画チックな展開は続く。
反転して振り向いたら虚空の先2、3m位のところに子供が横向きに立っていた。
前述だが部屋は狭く、枕から壁までの距離は1mもなかったと思うのだが、壁も部屋も何もかも見えない虚空に、壁があるはずの位置よりもさらに向こうにその子供はいた。
日焼けで褐色の細い足が半ズボンから出ていたが、ありがちなことにその先の足首が視認できなかったが、上半身は白と薄緑のツートンカラーのトレーナーだった。
横向きに立っていて、しかし目だけをじろりとこちらに向けて立っていて、通常現実に子供がするとは思えない悪意に満ちた目つきだった。
ねめつける、と言う表現がピッタリだった。
なぜか「こいつは5歳だ!」という声が頭の中で鳴り響いた。
<続く>
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