ガキの頃に親父の田舎で起こった話。

自分の親父の実家はよく言えば自然に囲まれた農村で、悪く言えばド田舎。
マムシは出るは、が熊が出るはで、夏休みに遊びに行くときは色んな意味で自然ってものを教えてもらった。
今から話すのは自分が小学校3年の夏休みの出来事。

自分はお盆の時期に祖父母の家へ家族で1週間ほど行った。

自分は年上の従兄弟(年齢順にA、Bにします)2人と朝から日が暮れるまで遊びまわり、帰る日が近づく頃には真っ黒に日焼けするくらい遊びまくった。
そして家に帰る前日になると、死ぬ程遊びまくったはずなのにまだまだ遊び足りない自分は、AとBに帰る前にもっと楽しいところは無いか?と訊いた。

そしてAの提案で『第2の秘密基地』と言うところに行くことになった。
第2の秘密基地と言う所は山に少し入ったところにある宗教団体が建てたらしい建物で、敷地を囲む金網があるが、入口の扉の鎖が緩んでいて、子供なら入れる状態だった。
人気が無く荒れ放題で、ボロボロの金網に囲まれた敷地内は雑草に覆われており、駐車場や通路はアスファルト舗装されているがほとんど落ち葉で路面は見えない。

平屋コンクリ造りの建物は所々白い塗装が剥げ落ちていて、ドアや窓も雨戸で締め切られている。
たぶん一つ一つに南京錠がかかっていた。

A達が出入りしている建物入口は倒木で戸板が割れている裏口で、A達の後について入ってみると中はすぐに小さな集会場のような部屋になっていて、山形に取り付けられた天窓があり、そこから入る明かりで明るかった。
部屋には横長の祭壇とリアルチ◯ポの形をしたご神体らしきものがあり、自分はアホな子供らしくそれを見てゲラゲラ笑っていた。

その後ははご神体を振り回す・投げる・石投げの的にする等罰当たりなことをしたり、建物内を探検したりと色々遊んだが、いい加減日も傾いてきて暗くなってきたので帰ろうってことになった。

入ったときと一緒でAを先頭に建物から出たとき、Aが突然「下向け!顔をぜったい上げるな!」と怒鳴った。

え?と思ったが、言われるままAの足元を見ながら建物の敷地を抜けようとすると、途中で誰かにすれ違った。

そいつを一言で表現すると「青」。
自分はそいつの足しか見てないが、老人の裸足で色が不自然な青の濃淡だけで見えている。
昔は五百円札みたいだと思ったが、今なら千円札の野口英世があの色合いのママ立っている感じだった。
自分はそんな奴が近くに立っていると思ったら怖ろしくなってきて、出来るだけAやBにくっついて歩いた。

Aは「◯◯◯さん助けて下さい」みたいなことを呪文のように繰り返し呟いている。

自分とBは半べそで兄貴にくっついている感じで、もうひたすら此所から出たいだけだった。
3人で早歩きになりながら、敷地の出入り口に向かうアスファルトの通路に出た。

自分は出口が近いと思ったら走り出したくなり、少し顔を上げたら後ろ姿のAに、「あと二人いる!頭下げろ!」と怒鳴られた。

見ないで自分が顔を上げたことに気付いたAに驚いたが、Aの声の感じが何時もと全く違うのでビビってすぐ下を向いた。

しばらく歩くと金網が揺すられる音がして、Aが出入り口の隙間から出ようとしているようだった。
見えるAの足が尋常じゃないくらい震えている。
Aが外に出た後で、まだ敷地内で下を向いているBと自分に差し出す手も震えていたが、その理由はすぐに判った。

確かに2人目はいた。

自分は足をチラッと見ただけだったが、さっきの老人の足とは違う若い女性の足で、くるぶし辺りが縦に数cm裂けている感じに見えたが、皮膚も裂けて見えている肉も青かった。

Aはまださっきの祈りみたいなのを続けている・・・。

祈る声が時々うわずったりして精神的にきつそうだったが、年下の二人を連れていることもあって頑張っていたと思う。
自分とBはAにすがるような気持ちで、並んでAの後ろを並んでAの手を掴んで進むしかなかった。

山道を下りる時もAは祈りを繰り返しながら、時々自分たちに「あと一人いるはずだから下向いてろ」みたいなことを言っていた。

もうすぐ山道を抜ける所まで来たとき、自分は安心感(と言うより安心したかったかも)から頭を少し上げて前を見た。
道の先に誰も立っていないことに本気で安心したが、やはり甘かった。
最後の一人は、進む先の路上から4m位の高さに時々ブレながら浮かんでいて、今じゃ見ないような結った髪型の着物を着た青い女が半笑いでこちらを凝視していました。

自分は怖さの余りAにしがみついき、Aは自分がそれを見たのがすぐに判ったようで、自分を抱えるように歩いてくれた。

そして日が落ちた頃にやっと祖父の家についた。

出迎えた祖父は怪我でもしたのか?と心配して聞いてきたが、Aがそれを見たこととちゃんとお祈りしながら帰ってきたことを話すと家中が大騒ぎになったのを覚えている。

祖父と親父は慌てて供え物を持ってどこかに出掛け、後から来た伯父も親父達の後を追って出かけていった。
祖母や母、伯母は祖父の家に残ったが、伯母は大泣きでAに付きっきりだった。

自分とBは起こったことがよく判らなかった。

しかし、Aが夜になると熱を出し始め、Aが死んじゃうんじゃないか?と心配になって横で泣いていたが、祖母に他の部屋に移されて寝かされた。

次の朝、祖父母の家から全員で少し山を登った所にある墓に手を合わせに行くことになった。
熱の下がってきたAも伯父に背負われていた。
誰の墓だかよく判らなかったが、墓は古く少し大きめの石を土台に据えた感じのものだったと覚えている。
自分の家系の氏神か何かかもしれないが、社とか無かったから只の墓かもしれない。

後は帰っただけなんでこの話は終わりです。

後日談としては、祖父の葬式の時に久しぶりにAに会って話をしましたが、その時の話をすると、Aは「オレが彼奴らにヤられたら、イカレてお前ら殺してた。気持ちで負けん様に必死だったよ。お前は分家だから取り憑かれないけど、Bが見てたらやばかったかもな」と、そんなことを言っていました。

うちの家系って祟られてんのか?と思って少し怖かったかな。