数年前に自分のアパート(二階)で体験した話。
ある日、寝ていたら友人Fの呼ぶ声で目を覚ました。
寝ぼけていた俺は、自分が一人暮らしで普段から玄関のドアには必ず鍵をかける習慣があることに思い至らなかった。
おかしな話なんだが、俺を呼ぶ声は寝ている居間の引き戸の向こう、つまり台所から聞こえているようだった。
友人F「ちょっと悪いんだけど、ここを開けてくれないか?」
親しげで気さくなFの声は、この時点では寝ぼけていた俺に危機感を持たせることは無く、「なんなんだよ、面倒だなあ」と、そんな感じの受け答えとともに俺は寝たままの姿勢で手を伸ばし、引き戸を開けてしまった。
ある日、寝ていたら友人Fの呼ぶ声で目を覚ました。
寝ぼけていた俺は、自分が一人暮らしで普段から玄関のドアには必ず鍵をかける習慣があることに思い至らなかった。
おかしな話なんだが、俺を呼ぶ声は寝ている居間の引き戸の向こう、つまり台所から聞こえているようだった。
友人F「ちょっと悪いんだけど、ここを開けてくれないか?」
親しげで気さくなFの声は、この時点では寝ぼけていた俺に危機感を持たせることは無く、「なんなんだよ、面倒だなあ」と、そんな感じの受け答えとともに俺は寝たままの姿勢で手を伸ばし、引き戸を開けてしまった。
その瞬間、腕だけを引き戸の方に伸ばしたまま金縛りにかかった。
この時になってようやく完全に目が覚めて、自分がおかしな行動を取っていたことに気付いたんだ。
合鍵も持ってないFがいつの間にか家の中に入ってきているというだけでも気味が悪いというのに、知らないうちに台所に居て、鍵のかかっていない引き戸を開けてほしいと頼んできているという、ちょっとありえないシチュエーション・・・。
木造建築っていうのは寝てると側で人が動く感触がよく伝わってくる。
だから、誰かが台所にいるっていうのは身体が動かなくてもすぐに分かった。
言いようの無い不安の中、台所からソイツがこちらに来る気配だけが伝わってきた。
Fなのか?
確認したいけど声も出ない。
身体の自由を取り戻す間もなく、侵入者は枕元のすぐ側までやってきていた。
カーテンから漏れてくる街灯の光のおかげで部屋は真っ暗というわけじゃなかったけど、首を動かせないこの状況では俺に見える景色といえば薄暗い部屋の天井のみといった状態だった。
そんな中、ひらりと何かが視界の端に飛び込んできた。
スカートの裾だった。
さすがに色までは分からなかったが、頭のすぐ側、プリーツ加工の折り目がついたロングスカートが揺れているのが分かった。
やはりFでは無かった。
何か得たいの知れないモノを部屋に招いてしまったのではないか?という危機感に駆られ、自由の利かない身体を必死に動かそうと焦っていると、「本当に開けてくれるとは思わなかった。ありがとう」と、聞き覚えのない、女の声がした。
若い、たぶん二十歳いってないんじゃないかと思うくらい子供っぽい、けど落ち着いた感じの声。
なんとなく、敵意のこもった感じじゃなくて少し安心したのをよく覚えている。
この直後、俺は意識を失ってしまった。
気がついた時には朝になってて、俺は風呂場の中で浴槽にもたれ掛かるように倒れていた。
普段は閉められている風呂場の窓が全開になっていて、ここに至るまでの経路にある脱衣場、居間、台所と全ての扉が開け放たれた状態になっていた。
念のために確認したが、玄関の鍵は締まったままだったし、そもそもFは俺の住む県外に住んでいて、ここまで来るのに車で一時間くらいかかる。
平日の夜中にこんな手の込んだイタズラをしにくるほどヤツは暇じゃない・・・。
一応連絡を取ったが、幸いにもFには男の部屋に無断で進入する趣味は無かった。
気味の悪さを感じながら一つ一つ窓や扉を閉めていき、開け放たれた台所の窓に手をかけた時、一つのことに気付いた。
「そう言えば、昨晩は夕飯の支度中に開けた台所の窓を閉め忘れていたような気がする」
この日以来、俺は寝る前の戸締りを入念に確認するようになりましたとさ。
おしまい
この時になってようやく完全に目が覚めて、自分がおかしな行動を取っていたことに気付いたんだ。
合鍵も持ってないFがいつの間にか家の中に入ってきているというだけでも気味が悪いというのに、知らないうちに台所に居て、鍵のかかっていない引き戸を開けてほしいと頼んできているという、ちょっとありえないシチュエーション・・・。
木造建築っていうのは寝てると側で人が動く感触がよく伝わってくる。
だから、誰かが台所にいるっていうのは身体が動かなくてもすぐに分かった。
言いようの無い不安の中、台所からソイツがこちらに来る気配だけが伝わってきた。
Fなのか?
確認したいけど声も出ない。
身体の自由を取り戻す間もなく、侵入者は枕元のすぐ側までやってきていた。
カーテンから漏れてくる街灯の光のおかげで部屋は真っ暗というわけじゃなかったけど、首を動かせないこの状況では俺に見える景色といえば薄暗い部屋の天井のみといった状態だった。
そんな中、ひらりと何かが視界の端に飛び込んできた。
スカートの裾だった。
さすがに色までは分からなかったが、頭のすぐ側、プリーツ加工の折り目がついたロングスカートが揺れているのが分かった。
やはりFでは無かった。
何か得たいの知れないモノを部屋に招いてしまったのではないか?という危機感に駆られ、自由の利かない身体を必死に動かそうと焦っていると、「本当に開けてくれるとは思わなかった。ありがとう」と、聞き覚えのない、女の声がした。
若い、たぶん二十歳いってないんじゃないかと思うくらい子供っぽい、けど落ち着いた感じの声。
なんとなく、敵意のこもった感じじゃなくて少し安心したのをよく覚えている。
この直後、俺は意識を失ってしまった。
気がついた時には朝になってて、俺は風呂場の中で浴槽にもたれ掛かるように倒れていた。
普段は閉められている風呂場の窓が全開になっていて、ここに至るまでの経路にある脱衣場、居間、台所と全ての扉が開け放たれた状態になっていた。
念のために確認したが、玄関の鍵は締まったままだったし、そもそもFは俺の住む県外に住んでいて、ここまで来るのに車で一時間くらいかかる。
平日の夜中にこんな手の込んだイタズラをしにくるほどヤツは暇じゃない・・・。
一応連絡を取ったが、幸いにもFには男の部屋に無断で進入する趣味は無かった。
気味の悪さを感じながら一つ一つ窓や扉を閉めていき、開け放たれた台所の窓に手をかけた時、一つのことに気付いた。
「そう言えば、昨晩は夕飯の支度中に開けた台所の窓を閉め忘れていたような気がする」
この日以来、俺は寝る前の戸締りを入念に確認するようになりましたとさ。
おしまい
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