小学一年生の頃の話。

俺に妹が出来るってことだったが、予定日が近いというのに母親は気管支炎を患ってしまい緊急入院した。
父は忙しい為俺達を見る余裕はなかったが、俺と1つ違いの弟は幼稚園と学校があったので親類に預けるわけにはいかず、毎日ばあちゃんがおやつと俺達の晩御飯を用意して諸々の注意をして(ドアは開けるな、電話は~)帰るという生活が10日程続いた。

もちろん不安もあったが、父親は仕事を切り上げて9時には帰って来てくれたので(いつもは11時頃)実質二人きりになるのは2時間ほどだったので平気だった。
ただ、二人で遊びまくってやろうと思ったが、ちゃんと母親から「予定表」なるものを渡されていて、俺と弟は8時には布団に入らされていた。

真面目にいつも8時には布団に入っていた。
何日かしてから弟が「窓から知らないお兄ちゃんがのぞいてる・・・」と言い出した。
いつも布団に入った頃にのぞきにくるのだという。
ビビって泣きそうになったけど兄としては示がつかないので、「恐かったら兄ちゃんの布団に入れ」と弟を招き入れて電気をつけて寝た。

次の日からずっと電気をつけて寝た。
弟ももう“お兄ちゃん”は来ないと言う。
その間に妹が産まれ、ついに母親が帰ってくる前日。
なぜか兄という使命感に駆られて、最後の日くらいは電気をつけずに寝てやると思い、ドキドキしながら豆電球のみで寝た。
だがやっぱり何も起こらなかった。

内心ホッとして本格的な眠りに入りそうになっていた瞬間、急に窓に誰かいるような気がした。
目をつむっているのに、部屋の映像が浮かんだ。
弟の言った通り眼鏡をかけた人が窓に張り付いていた。
ただ俺が予想してたよりもずっと幼く、小学校4年生くらいの男の子だった。

こちらをニヤニヤと見ていてとても恐かったが、そのうち消えると思って必死に目をつむっていた。
ところがしばらくしてその男の子は俺が気付いてるのを察したようで、いきなり窓をバンバンと叩き始めた。
それでも恐くて動けずに布団の中でガクガクしていたら、もう一人の声がして「駄目だよ、パパに叱られるよぉ。帰ろう」と女の子らしき声の主が言った。
俺は早く帰ってくれって祈った。

そしたら窓を叩く代わりに男の子は笑いだした。
世にも恐ろしい笑い声だった。
そしてニヤッと笑って「違うよぉ。しってるよ、この子達いっつも二人きりだよぉ。パパいないんだよぉ」と言ってまた窓をバンバンと叩き始めた。

俺はもうパニックになりながら「お父さんが帰ってきた!」と叫んだら、一瞬で頭の中の映像が消えて静かになった。

急いで部屋の電気をつけて弟にしがみついて必死にお父さんが早く帰ってくるように祈っていた。
もう兄の威厳なんてものにこだわるのはよそうと心に刻んだ出来事でした。