ある家族が都内に家を買った。
中古の家屋だが2階建てで家族3人で住むには充分な広さ。
そして何より格安の物件だったので家族は満足していた。

そして引っ越し当日。
とりあえず大きな荷物は片付け終わり、家族は初めての夜を迎えた。
父と母は一階、今度小学校にあがる息子は2階の自分の部屋に。

深夜1時ごろ、引っ越しの疲れもあり深い眠りについていた夫婦の意識を現実に引き戻したのは、息子の声だった。

息子「怖くて、寝れないの。壁が怖いの。一緒に寝ても、いい?」

息子の部屋は2階の角部屋。

以前の家族の趣味であろうか、壁に木の板が満遍なくはられ一見ログハウスのような部屋である。

母親「もうすぐ一年生になるんだから、一人で寝る練習をしなさい。楽しみにしてたでしょ?自分の部屋」

息子「だけど・・・」

しばらく押し問答を続けた挙句、母親は埃よけに使っていた一枚のシーツを息子の部屋の壁に貼ると、「これで、もう怖い壁は見えないでしょ?いいかげん寝なさい!」と息子を一人残し階下に戻った。

しばらく2階ではバタバタと息子の暴れている音が聞こえたが、そのうち静かになったので母親は安心して眠りについた。

そして次の日。
母親が息子を起こしに部屋に行くと、そこには空の冷えたベッドがあるのみだった。
母親は驚いて心当たりを探し回ったが息子の影も形もない。
靴も玄関に残っている・・・。

母親はふと息子の部屋に戻り、昨晩、自分が貼った壁のシーツをおもむろにめくってみた。
そこには・・見覚えのあるかわいらしい手が、助けを求めるかのように・・・。