もう12年前の話なんだが、家の近くにある山でうずくまってる女を見たんだ。
その時はまたかって思った。
ただいつもと違うのは・・・うずくまってた女が夢に出てきたこと。

その女は夢の中でもやっぱりうずくまってるんだ。
わかったのは泣きながら何かを呟いていることだけ。
あぁ・・・あの時見たのが夢に出てきたのか・・・くらいに思っていたんだよ。

それからは毎晩同じ夢を見るようになったんだけど、気にしなかった。
ただ気づいた時には夢は同じじゃなかった。
近づいてきてるんだ、俺じゃなく、女がね。

近づいたことによって女が呟いている言葉が少しずつ聞き取れた。

「・・・ない・・・えない・・・見えない」ってね。

言葉が聞き取れたことで初めて女の顔を覗き込んだ。

そこには目の無い女・・・。
くり抜かれたかのようにすっぽりと無いんだよ。

女は俺に顔を向けて見ているんだ、眼球のないまま。
俺はびっくりして飛び起きた。
真夏で暑がりの俺はエアコンつけてたのに、汗がびっしょりだった。

それからの夢は女が俺の前に立ったまま俺を見ているだけ。
ただその夢もずっと同じじゃなかった。
笑いだしたんだ女が、ニヤっとね。

そしてまた何か呟きだしたんだ。

そして出た言葉は「見える、見えた」だった。

そんな夢が続いたある日、異変に気づいた。
視力が極端に落ちはじめたんだ。

当時、自動車学校を卒業した俺は免許センターで眼鏡が必要だと言われて驚いた。
確か視力は2.0だったのに0.3まで低下していた。

最初は夢との関係なんて無いと思ってたが、さすがに目の無い女が夢で言った「見えた」が、俺の視力の低下は関係ないとは思わずにいられなかった。

そこで以前、実家での不可思議な現象をみてもらった、知り合いの婆ちゃんに相談することにした。

知り合いの婆ちゃんは所謂霊能者なんだ。
しかもお金は一切貰わずないることが信用出来る。

婆ちゃんの家に行ったらまず最初に言われたのは「また厄介なのを連れてきたね」だった。

婆ちゃんは俺を心配させない為なのか、にこやかに笑った。

「すぐに消えるから心配しなくていいよ」と、うちの墓がある寺に連れていかれた。

住職は婆ちゃんから話があったのだと思うが「早速始めよう」と本堂に連れていかれた。

本堂で婆ちゃんが「なにもせずに目をつぶってなさい」と告げ肩を抱いてくれ住職が念仏を唱えていた。
しばらくすると本堂の空気が重くなってきた、あきらかに重いんだ。
そして本堂の畳みをズルッズルッと足音が聞こえた。

周りを回りながら様子を窺っているのか目をつぶっている俺にはわからない。
わかるのは明らかに重い空気と女の足音のみ。
婆ちゃんが「もうすぐだからね辛抱しな」の言葉が救いだった。

そして俺の肩を抱く婆ちゃんの力が強くなったと同時にうめき声が聞こえた。

「ぐぅっ・・・うぅっ」ってね。

そして最後に耳元で、「あと少しだったのに」と聞こえた。

そして婆ちゃんの力が抜け住職の念仏も終わった。
婆ちゃんが「よう我慢したな」と優しい笑顔で言ってくれた。

婆ちゃんが言うには、「女は目をくり抜かれて殺されたんだろう・・・」と。

そして「あんたの目を奪おうとしたんだね」とも。

「でも恨んだらダメ、すべて人がやった結果だから」と、今でも婆ちゃんの言葉は心に残っている・・・。

死んだ人間の恨みを産むのは人間だということをね。

俺の話はこんなところです。