同じ大学の医学部を目指す、学生が二人いた。
この二人は高校の頃から仲が良く、部活動では良きライバル同士。
勉強にいたっては、共に優秀な成績を残していた。
ライバル同士なら、少なからず互いに嫉妬のようなものから不仲になると思われがちだが、この二人に至っては、良き理解者といったところであろう。
お互いに目指す目標は医学部。そして医者になることだった。

ここで仮に二人の名前を一樹と雄太としておこう。

雄太「もうすぐ受験だな」

一樹「ああ、お互いがんばって良い医者になろうぜ」

雄太「そうだな。おまえだけは負けたくないからな。へへ」

二人は良く帰り道で将来の夢に語り合った。
良き青春時代。ずっとこの仲が続くと信じて疑わなかった時代。
この後、待ち受ける悲劇をまだ二人は知らなかった・・・。

1年目。
某大学の合格発表掲示板の前に二人はいた。
遠くでは合格したのか、それとも受験に落ちたショックからか女性の泣き声もちらほら聞こえてくる。
一樹は自分の番号を何度も頭の中で繰り返し、掲示板を慎重に見ていく。

一樹「あった!」

思わず口から飛び出てしまった一言。
一樹は自分の番号が掲示板にあることを何度も何度も確認した。

一樹「おい雄太。俺、合格したよ」

雄太のもとに駆け寄り、自分の合格を告げた。
もちろん一樹は、雄太も合格しているものだと思っていた。
なぜなら雄太と一樹の偏差値は、それほど差がないからだ。
だが、雄太の返事は一樹の予想とは違っていた。

雄太「落ちたよ・・・」

雄太は、一言そう言うと下を向いて黙ってしまった。
一樹には掛ける言葉が見つからなかった・・・。

2年目。
あれから、雄太には「元気だせよ。また、受ければいいじゃん」「お前が合格するまで、待っててやるぜ」など、励ましの言葉を掛けてやった。
一樹の励ましもあってか、雄太はじょじょに元気を取り戻していった。

雄太「また、来年がんばるよ」

そして月日は流れ、合格発表当日になった。
一樹は、この一年雄太にいろいろ勉強や試験対策に付き合ってあげていた。
一緒に合格発表掲示板に並ぶ二人。

結果は不合格だった。
またしても、無かった。

なぜだ。
なんで無いんだ・・・。

一樹は雄太を慰めようと肩を組もうとしたが、雄太の腕が乱暴に一樹の腕を払い落とした。
一樹は、ただただ雄太の後姿を見つめることしか出来なかった。

3年目。
一樹は医学部でも良い成績を収めている。
雄太のことも心配だったが、あれから会う回数がじょじょに少なくなり最近ではぱったりと音沙汰が無くなっていた。

3回目の合格発表の日、一樹は雄太のことが気になり掲示板まで足を運んだ。
そこには、受験票を破り捨てる彼の姿があった・・・。

4年目。
雄太とは一年前を機に、まったく連絡をとっていない。
もう、医者になるのは諦めて別の道へと進んだのかな、と思っていた。
雄太とは一年半以上会ってない。

あいつは、いつか医学部に入ってやると言っていた。
もし、また再開できれば俺はあいつになんて言えばいいのだろうか?
否、あいつはあいつで楽しくやってるさ。

一樹は自分の心の中で、雄太への考えをめぐらせるのだった。

医学部の実践講習は、本物の死体を使ったものだった。
最初の頃は一樹も授業が終わると肉が食べれなかったが、慣れとはおそろしいものだ。
今では授業が終わった後、平気で学食の焼肉定食でも食べれる。

ストレッチャーに、一体の死体が運ばれてきた。
場所はいつもの解剖室。

これから、またいつもの解剖の授業がある。
ストレッチャーが先生の手によって、部屋に運び込まれてきた。

死体を見て、一樹は愕然とした。
雄太と一樹は医学部で、確かに再開を果たしたのであった。