知り合いの話。

彼の実家には古くて立派な蔵があるそうだ。
これは、彼がまだ幼い頃のこと。

夜中、祖母が蔵の横を通り過ぎると、中から人の気配がした。

「誰か中にいる?」と問うたところ、「すみませんっ」と慌てた声が返ってきた。

同時にバタバタッと、何か暴れるような大きな音がする。
とりあえず中を確認しようと扉を見ると、閂も鍵も掛かったままだった。

「泥棒だ!」と動転した祖母は、急いで他の家人を呼び集め、数を頼みに中を確認してみたが、蔵の中には誰もいなかった・・・。

ただ、綺麗に積んであったはずの荷物が、至る所で崩れていたという。
人が隠れられるような場所もなく、出ていけるような箇所もない。
家人たちは口々に不思議だと言い合った。

ただ祖父だけは笑ってこう言った。

祖父「大方、裏山の狸の類いが悪さしに来てたんだろう。昔はウチまで下りてきちゃあ、騒いでたモンだ」

まだ幼かった知り合いは、「え?あの蔵の中にドラえもんがいたの!?」と叫んだ。

彼にとって狸から連想できるものは、ドラえもんしかなかったらしい。
家族皆に大笑いされたそうだ。

祖母「アンタのおかげで、怖くなくなったよ」

祖母がそう言って頭を撫でてくれたのが、子供心に嬉しかったそうだ。