数年前の夏のこと。
会社の同僚が「関東怨念地図」を持ってきて、近場のスポットが紹介されているので行ってみないか!?と誘ってきた。

別に断る理由も無かったし、私自身も興味があったので付き合うことにした。
場所はK市内の某電話ボックス付近。
事故死した人の幽霊が出るらしい。

車で移動すること30分。
現場に到着した。

しかし、そこは車通りの激しい道路に面した普通の電話ボックスであった。
心霊スポットにありがちな、おどろおどろしい感じはまったく無い。

坂のてっぺんにある為、坂下からの見通しは悪く、飛び出したDQNが暴走車に撥ねられ事故になり、それが誇張されたのだろう、くらいしか考えられなかった。

件の電話ボックスに入ったり、数枚写真を撮ったりしてみたが、やはり普通の電話ボックスでしかない。
いつしか小雨も降り出したので、最後にすぐ側の荒れた原っぱを散策して帰ろう、ということになった。

膝くらいの高さの草を踏み分け中に入っていく。
少し進んだところで、カサカサとした感触のものを踏んでしまった。
なんだろう?と足元を見る。

・・・それは、カラカラに干からびた複数の花束であった。
その朽ち方から見て、結構な日数が経っているものと思われる。
死亡事故があったのは本当なのだろうか?
なぜ、花束がこんな所に打ち捨てられているのだろうか。

そんなことを考えながら、内心不吉な予感で心がいっぱいになる。
私と同僚は気持ち悪さに居た堪れなくなり、車に飛び乗り逃げ出した。

しかし、動揺からか、焦りからか、どこで道を間違えたのだろうか、我々は見知らぬ団地へと迷い込んでいた。

夜8時を過ぎているというのに、灯りひとつ無い団地。
人の生活感がまったく感じられない、まさしく廃墟だった。

もと来た道を引き返そうとしたが、先程まで気づかなかったがまるで土手道のように細く荒れている。
街中であるはずなのに、うっすらと霧みたいなものもかかっている。
古ぼけた廃車や赤錆びた看板がそこかしこに散乱している。
そこだけ時が止まっている、いや、死んでいるような感じがした。

K市に住んで20年の同僚も、こんな場所は知らないという。
先程の花束のこともあり、我々は大パニックになった。

それでもなんとか気持ちを落ち着かせ、何回も切り返し、あせって何度もエンストしながらも、我々はこの廃墟団地を抜け出すことが出来た。
・・・それ以来、同僚は心霊スポットの話をしなくなった。

例の電話ボックスは、まだ現存している。
仕事の都合上何度かその前を通るが、当時の恐怖を思い出してしまうことがある。

廃墟団地も探してみたが、あれ以来見つけることは出来なかった。
あれは、なんだったのだろう・・・。