あんまり怖くはないけれど、よく考えたらちょっと怖い話だなと思ったこと。

私は十五年くらい前、両親の離婚のゴタゴタで田舎の祖母の家に預けられていた。
そこにはおかっぱ頭で綺麗な着物を着た可愛い女の子がいて、いつも一緒に遊んでいた。

ある日、女の子が道の真ん中に立っていて、車が凄い勢いでその子に突っ込もうとしていた。
あぶない、と思うより先に飛び出し、女の子を突き飛ばし、私が車にひかれてしまった。

ひき逃げで、犯人は見付からなかった・・・。

なぜこんなことになったのかを聞かれたから、いつも一緒に遊んでいた女の子を助けようとしたと素直に話したら、そんな子は存在しないらしかった。
私はいつも一人で遊んでいたそうだ。

それよりも、事故の後遺症で私は左腕が肩から上がらなくなってしまった。
けれど、なぜか不便は感じなかった。
それというのも、例えば髪を洗う時には、自分のものではない手がもう片方の手と一緒に髪を洗ってくれたし、それに日常生活でそんなに腕を上げることも無かったから。
ただ、あれ以来女の子と直接会うことは無くなった。

それを不思議と思わず、小学校高学年くらいになった頃、家が火事になった。
祖母に連れられて外に出たけれど、家の中にまだ女の子がいた。
助けようと思ったけれど、祖母も近所の人も放してくれない。
私は必死で、名前も知らない女の子を助けようとしていた。
勿論、誰にもその子は見えていなかった。

最後に、女の子が見えなくなった時に、口が動いていた。
たぶん『ばいばい』だったと思う。
女の子の口が開いたの、その時に初めて見た気がした。

次の日から、なぜか腕が上がるようになっていた。
今も五体満足だ。

女の子の名前も正体も声もいまだに知らないけれど、家庭内のストレスで見た幻覚ではないと思う。