小学校1年生の頃、よく自分ちのお墓があるお寺でひとりで遊んでいた。
池の鯉を見たり、お寺に飼われてた猫のミケと遊ぶのが楽しかった。
じいちゃんのお墓にお参りして、周りに生えてるタンポポを摘んでお供えしたりしてた。

ある日、いつものようにタンポポを摘んでいたら、着物を着たおばあちゃんが声をかけて来た。

「泉さんとこの和子ちゃんでしょ?しばらく見ないうちに大きくなって」と、おばあちゃんは笑ってた。

おばあちゃんはどこのお家のおばあちゃんかって聞くと、「山口先生のとこのおばあちゃんよ」と答えた。
山口先生は近所の小児科の先生で、私も熱をだしたりするとその先生の所で診てもらってた。

「おばあちゃんね、迷子になっちゃったのよ。お墓までは来れたのに、先生のお家まで行く道がわからなくなって困ってたの」

大人でも迷子になるんだんね。
あっちの門を出て、まっすぐ行って、車がたくさん通ってる道を左に曲がって、またまっすぐ行くんだよ。
信号は渡っちゃだめだからね、と教えてあげた。

おばあちゃんは「どうもありがとう。きちんと教えられて偉いわね。これはお礼」と言って、明治ミルクキャラメルをくれた。

その夜風邪をひいたのか熱をだした。
夜の8時頃、山口先生が往診に来てくれて、お尻に注射をうたれた。
偉いねって褒められたことを言いたくて、昼間のことを話して、先生のおばあちゃんからもらった明治ミルクキャラメルを見せた。
先生と母親はびっくりしたように顔を見合わせた。
私はたぶんそのまま眠ってしまったんだろう。
目が覚めたら朝になっていて、熱もすっかりひいていた。

あとから知ったんだけど、おばあちゃんは前の年になくなっていて、事情があり分骨したんだそうだ。
キャラメルはおばあちゃんの大好物で、入れ歯につかないように、一粒をゆっくり時間をかけて噛まずになめてたんだって。