昔の話なんだけど、夢に出てきて思い出してしまったので投下。
故郷では初盆に舟を海に流す風習がある。
精霊流しと似てるけど別の行事。
幼児なら寝そべることができそうな大きさの木製舟で、新しい白装束とわらじ、盆菓子や果物などを入れて、舟の周囲に枠を組んで、多数の小提灯で飾り立てるんだ。
故郷では初盆に舟を海に流す風習がある。
精霊流しと似てるけど別の行事。
幼児なら寝そべることができそうな大きさの木製舟で、新しい白装束とわらじ、盆菓子や果物などを入れて、舟の周囲に枠を組んで、多数の小提灯で飾り立てるんだ。
流したときに提灯の火が燃え移って炎上したり舟が沈むととても縁起が悪いので、提灯の飾りつけには細心の注意が必要になる。
縁起が悪いとされているだけで、特に何かが起こるわけじゃないけどね。
俺が小さい頃に、祖母が亡くなったので舟を流すことになった。
我が家は祖父が器用な人だったので、流し舟は業者に注文するのではなく祖父が設計して造り、わらじも祖父が手編みしたものが入れられた。
当日、波止場には漁船が来て、流し舟を海に浮かべる作業をしていて、当時は漁師だった父もその作業を手伝っていると聞いていたので、近くへ見に行きたかったけど、母に「危ないからウロウロしないで。海に落ちたらどうするの」と叱られて、しっかり手を握られていたため見に行けなかった。
だから真っ暗な海を流れていく舟を眺めていたんだ。
提灯で薄ぼんやり輝いていて綺麗だったんだけど、よく見たら他家の舟上で何か物色している黒い人影に気づいた。
盆菓子や果物を食べてるんだな、と俺は思った。
しばらくすると、人影は軽い身のこなしで別の舟に飛び移った。
物色して欲しいものが見つからなかったのか、腹いせに提灯を叩いたから、その舟の提灯が大きく揺れて、火が燃え移って炎上した。
真っ黒で表情は見えないけど、なんとなく人影が笑ったように感じられた。
ここで俺は、やっと「なんで真っ黒なままなの?」って気づいた。
提灯の火に照らされたら普通は姿が見えるよな。
でも人影は黒いシルエットのままで、俺は急に怖くなって「舟に誰かいるよ」って母に訴えたんだけど、「いるわけないでしょ。乗っていたら海に浮かべる前にわかる」と笑われた。
どうやら母には見えていないらしかった。
でも人影が祖母の舟に跳び移って、わらじを手に取った途端に、「えぇ!?」って、びっくりしたような顔をしたんだ。
後で聞いたら、母には空中にわらじが浮き上がったように見えたらしい。
俺には、人影がわらじを手にとって履きたそうにしてるように見えてた。
冷静に考えたら、人影がわらじを手にとっても、位置的にわらじを目視するのは提灯に阻まれて無理だったはずなんだけど、そのときは人影がわらじを掴んでいることが確信できたんだ。
怖くて声に出せないけど心の中で、『お爺ちゃんがお婆ちゃんのために作ったんだからダメ!』と思っていたら、なんでだか人影がこっちを見た気配がして、舟底にわらじを叩きつけ、そのまま怒ったみたいに提灯も叩かれた。
でも提灯は少し揺れただけで、蝋燭の火は燃え移らなかった。
祖父が頑張って組んだ枠に、しっかり繋がれていたからだと思う。
何回か叩いていたけど、やっぱり燃えなかったのが悔しかったのか、人影はピョンピョン舟を飛び移りながら遠ざかっていった。
それだけのことなんだけど、小さい俺にとっては怖かった思い出。
あれは自分の舟を用意してもらえなかった無縁仏だったのかな?
現在では環境保護がどうのこうのってことで、舟には何も積んではいけないことになったので、あの人影がきても、もう何も食べられないし着物や履物も手に入らない。
そう思うと少しだけ可哀想な気がしないでもない。
縁起が悪いとされているだけで、特に何かが起こるわけじゃないけどね。
俺が小さい頃に、祖母が亡くなったので舟を流すことになった。
我が家は祖父が器用な人だったので、流し舟は業者に注文するのではなく祖父が設計して造り、わらじも祖父が手編みしたものが入れられた。
当日、波止場には漁船が来て、流し舟を海に浮かべる作業をしていて、当時は漁師だった父もその作業を手伝っていると聞いていたので、近くへ見に行きたかったけど、母に「危ないからウロウロしないで。海に落ちたらどうするの」と叱られて、しっかり手を握られていたため見に行けなかった。
だから真っ暗な海を流れていく舟を眺めていたんだ。
提灯で薄ぼんやり輝いていて綺麗だったんだけど、よく見たら他家の舟上で何か物色している黒い人影に気づいた。
盆菓子や果物を食べてるんだな、と俺は思った。
しばらくすると、人影は軽い身のこなしで別の舟に飛び移った。
物色して欲しいものが見つからなかったのか、腹いせに提灯を叩いたから、その舟の提灯が大きく揺れて、火が燃え移って炎上した。
真っ黒で表情は見えないけど、なんとなく人影が笑ったように感じられた。
ここで俺は、やっと「なんで真っ黒なままなの?」って気づいた。
提灯の火に照らされたら普通は姿が見えるよな。
でも人影は黒いシルエットのままで、俺は急に怖くなって「舟に誰かいるよ」って母に訴えたんだけど、「いるわけないでしょ。乗っていたら海に浮かべる前にわかる」と笑われた。
どうやら母には見えていないらしかった。
でも人影が祖母の舟に跳び移って、わらじを手に取った途端に、「えぇ!?」って、びっくりしたような顔をしたんだ。
後で聞いたら、母には空中にわらじが浮き上がったように見えたらしい。
俺には、人影がわらじを手にとって履きたそうにしてるように見えてた。
冷静に考えたら、人影がわらじを手にとっても、位置的にわらじを目視するのは提灯に阻まれて無理だったはずなんだけど、そのときは人影がわらじを掴んでいることが確信できたんだ。
怖くて声に出せないけど心の中で、『お爺ちゃんがお婆ちゃんのために作ったんだからダメ!』と思っていたら、なんでだか人影がこっちを見た気配がして、舟底にわらじを叩きつけ、そのまま怒ったみたいに提灯も叩かれた。
でも提灯は少し揺れただけで、蝋燭の火は燃え移らなかった。
祖父が頑張って組んだ枠に、しっかり繋がれていたからだと思う。
何回か叩いていたけど、やっぱり燃えなかったのが悔しかったのか、人影はピョンピョン舟を飛び移りながら遠ざかっていった。
それだけのことなんだけど、小さい俺にとっては怖かった思い出。
あれは自分の舟を用意してもらえなかった無縁仏だったのかな?
現在では環境保護がどうのこうのってことで、舟には何も積んではいけないことになったので、あの人影がきても、もう何も食べられないし着物や履物も手に入らない。
そう思うと少しだけ可哀想な気がしないでもない。
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