俺、映像の仕事してるんだけど、あるとき仕事関係の知り合いから、その人が以前都内の某ホテルで働いていたときの話を聞いた。

なんでもよく“出る”部屋があって客からのクレームが絶えなかったためホテル側はなんとその部屋をコンクリートで塞いでしまったらしい。
ところが、そのせいか今度はそのフロア全体に“出る”ようになってしまい、やむなくホテルは基本的にはそのフロアに客を通さないことにしたという。

一度クレーマーまがいのヤクザをわざとそのフロアの部屋に案内したら、翌朝真っ青な顔でチェックアウトしていったみたいなこともあったそうだ。

当時、ちょうどそのホテルで起きた不可解な飛び降り自殺がニュースになっていたりもしたんだけど、それでもそのときはちょっとした怪談のひとつくらいにしか思わなかった。

そんな話を聞いたことすらすっかり忘れていたころ結婚式場が舞台の映像を制作することになり、若手スタッフに式場を持つホテルのロケハンを頼んだ。

4箇所ほどホテルを回ってもらったあと、ロケハン写真を見せられた俺は驚いた。
3箇所めのホテルで撮った写真一面に半透明の大小の球体(いわゆるオーブ)がビッシリ写っていたからだ。

しかも1枚や2枚だけではなく、そのホテルで撮った写真のすべてがその状態だった(他のホテルの写真には皆無)。
そしてそのホテルこそ、以前“出る”と聞いていたあのホテルだった。

思わず「なにこれ?」と聞くと、オカルトに興味ゼロのそのスタッフは「なんかカメラの調子がおかしかったんスよねー」で済ませていたが、俺は「いまやフロア全体じゃなくてホテル全体に広がってんだなー」とか考えてた。

それが理由じゃないけど、結局そこでは撮影しなかった。

あれから7、8年経つ今も、なんとなく自分からはそのホテルに近づかない。