俺の家って俺が子どもの頃からよく壁や天井が軋むような、叩かれるような、何かが倒れたりするようないわゆるラップ音が頻繁に聞こえるのね。

例えば、俺が小学生だった頃は昼過ぎに学校から帰ってくると、親が共働きなこともあって家に俺一人になったりすることもあったんだよ。
ラップ音はそんな昼の時間帯でも頻発して、誰もいない二階の床が「ドタッ」みたいな音たてるんで、子どもだった俺は強盗や空き巣が入って来てて二階にいるんじゃないかとか、すげえ不安で怖い思いをしてた。

ある時は玄関のドアが空いたような音がしたり、ある時は二階にある和室の引き戸が「ゴロゴロ」って少し開くような音がしたりした。
そんな音がするたびに、俺は木製のバットとか台所にある包丁とか持って音がする方へ恐る恐る誰もいないことを確認しに行ったりしてた。

その影響があってか、子どもの頃から大人になった今に至るまで、家の外から不審者や犯罪者やキチガイが家の窓や二階のベランダや裏口から侵入してくるって内容の夢をすんごいよく見るんだよ。

夢の内容は、家に俺がいてなんとなく過ごしてると「あっ、これは入られそうだな」って直感が突然頭をよぎる。
で、慌てて気配がする家の箇所、例えば玄関の横にある窓に駆け寄ってみると知らないおっさんが家の外からじーっと家の中の様子をうかがってる。
俺は次々とそんな侵入者の居る家の出入り口に駆けつけてカギを閉めたり、武器を見せつけて威嚇して侵入者を追い払ったりする、そんな夢だ。

侵入者の見た目はおっさんだったり、イカれた表情の女だったり、時には2mくらいある化け物の姿だったりする。

その夢は俺が大人になるに連れて内容がエスカレートしていって、家の中に侵入者が入って来てしまう!もうダメだ!ってとこで目が覚めるようになっていった。

大学に入るころになると、それまでは経験したことなかった金縛りにもあうようになり、金縛りの間、例のあの「あっ、誰か家に入ってきそう」という予感がするようになる。

そして更に、金縛りにかかって悪寒に耐えていると突然すごいリアルな家のドアが開く音が聞こえてくる。
そして明らかな足音が俺のいる部屋に近づいてきて、俺のベッドの近くをうろついて止まる。
そうするとまた家のドアが開く音が聞こえて、同じように足音が近づいてきてベッドの近くをうろついて止まる。
怖さで目を開けずにひたすら耐えていて、それでもあまりにも音や気配がリアルなので、足音が近づいてくるループ五度目くらいのときに恐る恐る目を開けると、おっさんが一人無表情でベッドの横に立って俺を見下ろしてた。

怖さで頭が真っ白になってると、今度はまた新しく「また何かが家に入ってきそう!」という気配がする。
そして急に金縛りが解けて、勢いよく飛び起きるとさっきのおっさんはいなくなっていた。

だけど、今度こそ現実に、リアルに誰かが家の玄関の前に立っている!と、なぜか確信した俺は、慌てて玄関に駆け寄った。

玄関のドアに近づくと、普通ドアの重みで自然に閉まるはずなのに、何に支えられているのか、ドアが数センチ開いていた。
危機感を覚えた俺は、慌ててドアノブを手にとったが、その瞬間、体が凍りづいて全身の毛が逆立った。

数センチあいたドアの隙間からドアノブに手をかけている不気味な表情の小さな女が、棒立ちで俺を見つめていたのだ。

俺は叫びながら、ドアを閉めようと渾身の力でドアノブを引くが、どんなに力を入れても小さくて細い不気味な女が片手で持ってるだけのドアを引き戻せなかった。
俺は泣きそうになりながら必至でドアを引いているが、女はそんな俺をじーっと無表情で見つめていた。

そんな状態が10秒くらい続いて、突然その女はニヤ~っと笑い始めた。
俺はもうダメだ!入られる!と思った。

次の瞬間、俺はさっきまで寝てた自分のベッドの上で目が覚めた。
何がなんだか分からない状態で、さっきの女は!?おっさんは??何がどうなったんだ!??と、飛び起きた。

めちゃくちゃ怖かったが、家のドアを確認しに行ってみると、きちんとカギがかけられている。
どうやらおっさんや女は今までになくリアルな金縛り中の夢だったらしく、状況を把握するのにすごく時間がかかった。
それが今年の2月のこと。

ただ、俺がものすごく不安なのは、それ以来あんなに頻繁に見ていた侵入者の夢を見なくなったことだ。
家のラップ音は子どもの頃からあるもんだからさすがに慣れてしまったけど、夢を見なくなったのは結局なにかに入られてしまったのだろうか。