うちの地区のお寺に安置されてるお地蔵さんのはなし。

うちの町は海辺の小さな田舎町、母がまだうら若き乙女だった頃、近所の婆さまが死んだ。
その婆さまは頼まれたら鳴釜をして拝む人だったらしい。
葬式もおわり婆さまの荷物を片付けているときに浜に出ようとしていた母はその場所を通りかかった。
その婆さまの親戚で当時40代で漁師、腕に綺麗な模様のある屈強なおじさんが、「面白いから見てけ!見てけ!」と母を呼び止めた。

何があるのかと母が足を止めると「この地蔵さん、見とけよ~」と言っておじさんはお地蔵さんに手をかける。
その地蔵さんは死んだ婆さまがいつも拝んでいた地蔵さん。

「地蔵さん、拝んだるよってに◯◯のうちに行こか~」

そう言って上げようとしても座布団から上がらない。

「地蔵さん、寺行こか~」

すかっと上がる。

「地蔵さん、◯◯のうちいこか~」

地区指折りの力持ちのおじさんの腕の筋が浮き出るほど力を入れても持ち上がらない。

母は座布団に地蔵さんの尻がくっついて△の形になったという。
幼い頃からお寺にいくたび母にこの話を聞かされて育ってきた。
その地蔵さんはいまでもうちのお寺の敷地内にお座りになっている。

で、なんで海にまつわる話かっていうと、この地蔵さん、婆さまが浜に打ち上げられているのを拾ってきてずっと拝んでいたものだそうだ。

戦時中の南海地震で津波にに襲われた際、地蔵さんとともに婆さまの荷物だけ天井にひっついて濡れてもいなかった、ということだ。

現実、いまでも母は目撃者だし、今でもお寺に行くと「おまえも拝んでこい」という。
お堂の中、一見小ぶりな地蔵さん。
もうお寺の住職も代替わりして自分より年下の住職だからこの地蔵さんの由来とか知らないかもね。
拝んでいつも思うのだが、この地蔵さん、今は深く眠っている気がする。
深く深く、ね。

縁のある人の目に止まれば。
では、おわり。