身内の知り合いから聞いた話。

時代はかなり前になります。
話してくれた人のひいおばあさんのお話です。

時代はさかのぼり、まだひいおばあさんがご健在だった頃・・・。
その方(後Aさん)が、ある時道端で櫛(くし)を拾ったそうです。

半月型の平面の櫛です。

今なら時代劇に出てきたり、歴史のある櫛屋さんでしか見られないような大層な櫛だったそうです。

日本髪をする時の飾りのような櫛と言ったら分かって頂けるでしょうか。

ものめずらしさにAさんはその櫛を持ち帰ったそうです。

お話してくれた方は「ひいおばあちゃんは特に気にも止めず、後に持ち主を探そうと思っていたかもしれないんです」

そう、言っていました。

そんな出来事から数日後、Aさんの様子に違和感があることに家族が気づくのです。

顔が青白くなり、酷く痩せていっています。

今まで普通に会話をしていたAさんが、うわ言をつぶやいたり、突然意味のないことを話し出したり、明らかに今までのAさんとは違って家族の方は心配しながらも様子を窺っていたそうです。

そこのご家族は、Aさん、Aさんのご主人+Aさんの娘さん、お婿さん、お嬢さんと同居されていたそうですが、そのうちに、同居していたお孫さんは理由も知らされず、親族の家へ預けられたと言います。(現在に戻ると、お話してくれた人のお母さんです)

しかし、お嬢さんの方と言えば、親族とは言え、そう長く他人の家にいるにも不都合が出てきます。

そして何より、理由も分からず離れてしまった家族にも、たいそう会いたくなったそうです。

そんな状態もあり、預けられてる親族の方にお願いし、家族に連絡を取ってもらい親族の方と一時帰宅をしたときのことです。

いつもの立派な長屋に脚を踏み入れると、お嬢さんは何かしら違和感を感じたそうです。

暖かな昔の佇まいの家からは、何か獣のような臭いが漂い幼いお嬢さんは不安になりご家族を探したそうです。

「おかあさーん、ただいまあー荷物取りに来たよーー」

返事はありません。

長屋の居間、台所、寝室・・・買い物に行ったのかな?と思いながら一緒に来ていた親戚より我先に、と、家の勝手知ったるお嬢さんは、パタパタと家中を探し回ったそうです。

家族の姿をどこにも無く、ふと気づくとAさんの部屋で、もしかしたらおばあちゃんはいるかもしれないとお嬢さんは声をかけます。

「おばあちゃん?ただいま」

・・・返事はありません。

お嬢さんは今までの流れの通り、Aさんの部屋の障子を引くとそこには痩せてあごを尖らせ、細い一本線の目を吊り上げ、まっしろい顔のまるでお狐様のようなAさんがじっと・・お嬢さんを見据えたそうです。

同伴していた親族の方に慌てて引き離され、家の近くの喫茶店(お茶所)に連れて行かれお汁粉をご馳走してもらったそうです。

ですが、さっきのことが恐ろしくお嬢さんは、ただ座ってじっとしていることしか出来なかったそうです。

夕方になり、親族の方が先ほどの実家に連れて行ってくれるとお母さんやお父さん、おじいさんがいらしていたそうで親族の方も交えAさんの様子について話されたそうです。

お嬢さんは席を話すように言われましたが、Aさんのことが頭に浮かび、とても一人で別室にいると言うことが出来ませんでした。

その話し合いによるとAさんの様子に違和感を感じたご家族は今で言う認知症になってしまったのかと思い、様子を見ていたようです。

ですが次第にAさんは段々と家族の食卓を離れ、自室で何か自分で用意して食べている。

毎日夜中に抜け出し一定の時間どこかへ行っている、と言うことに気付いたそうです。

Aさんが出かけている間に、Aさんの部屋を調べるとそこには大量の油揚げが食べ散らかされ夜中家族が後を付けると、お稲荷さんに足を運んでいたそうでした。

・・・これは、と思い、その手の方に相談したところ、お狐様が憑いている、お祓いに、Aさんの娘さん(お孫さんのお母さん)はお百度参りに行くことを進められちょうどその最中だったそうです。
櫛も確かお祓いをしていたと言っていたとお思います。

聞いたときは、背筋が寒くなり、本当にこんなことがあるものなのかと酷く恐ろしい気持ちになったことを覚えています。

話の中は多少ぼやかしたり、手を加えていますが、内容はほとんどそのままです。

そのお祓いは無事に終わり、それからは不可思議なことは起きずに元のAさんに戻られたようです。

お狐様のようになってしまった期間、Aさんは何も記憶がなかったそうです。