企業ビルでビル管理をしてると、月に泊まりが5~6回ある。

22時過ぎに高層階のレストランが閉店するとエスカレーターの停止をかけに行くが、その夜はレストランのフロアマネージャーが最終退出で声をかけてきた。

「あ、あの、朝から男子トイレの個室が一つ、ドアが閉まりっぱなしなんです」

早く言えよそういうことは!とカチンときながら男子トイレに一緒に向かった。
奥の個室の扉が閉まってる。

「どなたかいますかあ?」

ノックをするが返事がない。
扉を押すと、スライドラッチと呼ばれる閂(かんぬき)錠が掛かってる。

変だと思って、床に顔を付けながら下から覗いたら、座ってる男の足。
靴からしたら高齢者のようだ。

「いらっしゃるみたいです」

けげんな顔で立ち上がるとフロアマネージャーに言った。
無言で青い顔になるフロアマネージャー。

なんか変だぞと思い、一旦防災センターに戻り警備員に応援を頼むと、一緒に脚立を持って高層階にエレベータで上がった。
中で意識を失っていたりすれば登って上から入り、内側の鍵を開けねばならない。

再び警備員と男子トイレに来た。

「もしもしー!どなたかおられますか!」

警備員が大きな声を出して扉を叩く。

「いい、いま登るから」

そう言って今度は自分が扉の前に脚立を立てて、上から中を見た。
誰もおらず、内側から鍵が無人のまま掛かっていた。

このビルに17年いる警備員は、何回かお目にかかったことがあるそうだ。