俺が小学六年生の頃の話。

当時の女の担任は最低なやつだった。
仮に桜田とする。

授業中に、いきなりつまらないことでキレて職員室にこもる。
宿題を忘れた生徒に対してチョークを箱ごとぶん投げる。

教室内で生徒がケガをするトラブルが起こっても、自分の査定に響かないよう、たくみに口止めして表ざたにしない。

あげくの果てに、ホームルームのたびに「みんなが先生を信用してくれなくてつらい」みたいなことをほざいていた。
まあ、そんなこんなでクラス内にも不満が溜まっていった。

ある日のこと。朝のホームルームが始まる少し前くらいの時間だったかな。
桜田がすごい剣幕で教室に入って、いきなり大声で「誰がやったああああああ!?」と叫んだ。

そして、入り口近くにいた女子の肩につかみかかって、何やら意味不明なことをブツブツ言いだす。
女子は泣いていた。

しかし、すぐに教頭や隣のクラスの先生が駆け込んできて、暴れる桜田を取り押さえて廊下の奥へと消えていった。
桜田はその日以降学校に来なくなった。

何日かして教頭から桜田は急病で仕事をやめたと聞いた。
そして、一週間後くらいに非常勤の先生が担任として来てくれて、クラスはじょじょに落ち着きを取り戻していく。
クラスメイトたちは安堵し、桜田のことはだんだんと忘れられていった。

だが、好奇心旺盛だった俺と悪友の大野は、桜田がやめた原因をひたすら気にかけていた。

もともと頭がおかしかったんだから、いきなり精神を病んで入院したと聞けばそれはそれで納得はする。
しかし、どうも「誰がやった!?」という言葉が引っかかっていた。

他の教師にきいてもはぐらかされてしまうし、子供ながらに俺たちは何かがあると踏んでいたのだ。

いろいろ悩んだ末に、父親のような深い付き合いがあった五年生の頃の担任の石井を頼ることにした。
彼も最初は口をつぐんでいたものの根負けして、口外しないことを条件に教えてくれることになった。

簡潔に言うと桜田がいなくなる何日か前に、差出人不明で教育委員会にビデオを送りつけた奴がいたらしい。
それで桜田の行いが教育委員会の知るところとなり、余罪もあって懲戒免職となったそうだ。

石井はついでにそのビデオを見せてくれた。
ビデオには教室で繰り広げられた桜田の悪行ざんまいが映っていた。
生徒を叩いたり、授業を抜け出したりと、いつもと変わらない姿が映っていた。

窓の外、教室の天井、教卓の後ろからなど、いろいろな場所から撮影されており、角度が変わったり、たまにズームインもあって全然見飽きない。

プロの仕事だと俺はニヤニヤしながら見ていたが、大野と石井はずっと黙りこくっていた。
そして、10分程度の上映会は終わった。

俺はいつもどおり、家の方向が同じ大野と帰っていた。
俺はもう桜田ざまーみろって感じでハイテンションを保ったままだったが、大野はずっと黙りこくっていた。
やがて大野が重い口を開いた。

大野「おまえさ、変に思わなかったのか?あの映像はおかしいんだよ!」

俺「どこがだよ」

大野「どうやって撮ったんだよ、あれ!」

大野の言葉に俺は黙り込んでしまった。

冷静に思い出してみると、撮られた場所は窓の外から、教室の天井から、教卓の後ろからだった。
そしてたまにズームもしていて角度も変わっていた。

そこで俺は気づいた。
まず教室は5階で、周囲に高い建物もない。
落下事故防止のためベランダもない。
どうやって窓の外から撮ったのだろう。

教卓の後ろや天井から撮るくらいなら、隠しカメラを固定すればどうにかなるだろう。しかし、ズームや角度変更は誰かがカメラを持っていなければならない。

窓の外の場合でも同じことが言える。

当然、カメラを持った誰かが教卓の後ろにいたり、天井に張り付いてたら間違いなく気づくはずなのだ。
つまり、あの映像を取ることはまずできない。

俺は同時に、教師たちが犯人探しをしなかったことや、いんぺいしていたことになんとなく納得がいった。

そして、俺たちはこのことをすぐに忘れることにした。