ここで同じような体験を読んだので、書いてみる。
生まれる前の記憶みたいなもの・・・って、半分くらいオカルト?

最も古い記憶になると、3歳前後から正確に記憶が継続している。
記憶力は割と自慢なのだが、それより前にバグッているとおぼしき記憶がある。

夢だよ。
思い違いだよ。

・・・と言われればそれまでなのだが、この記憶は「ただの勘違いではないのでは?」と思える。

幼稚園くらいの歳で、古くてボロい昭和のデパートで遊んでいた。
一緒に遊んでた女の子は若いお母さんと来ていて、デパートで再会してかくれんぼすることになって、女の子が隠れて俺が鬼の役になった。

女の子はお母さんに「◯◯くんとちょっとかくれんぼしてくる」と言って、女の子のお母さんは「じゃあ、お母さんは3階の婦人服売り場にいるからね」と手を離した。

100まで数えて、女の子が隠れるのを待つ。
洋服売り場は冬物が多く、昭和っぽい原色の服や、モコモコの毛皮ジャケットや、革製品、ファーが多かった。

かくれんぼだが、女の子は「見ーつけた」と言う度に、楽しそうに笑いながら別の場所に隠れていく。
そのうち鬼ごっこになってしまい、エスカレーターを囲んでぐるぐる走り回っていた。

女の子は走っている背中が見えている距離で、冬服に埋もれて反対側に抜けようとしていた。
もう少しで追いつけるかなというところで、女の子は完全に冬服に埋まって姿を消した。

文字通り消えた。

女の子は目の前で、洋服売り場のファー付き毛皮のコートをかき分けて、そのまま反対側にいつまでも突き抜けなかった。

今でこそタンスを開けて毛皮のコートをかき分けたナルニア国物語のようだと言えるが、当時はナルニア国物語どころかネットもファミコンも無い時代。
この状況をどう表現すればいいか分からなかった。

追いかけて、女の子の消えたところまで来た俺は目を疑った。
足元を見ても足は出てない。
向こう側に突き抜けたなら服が揺れるはずだが、反対側の服は揺れてもいない。
不自然に隠れている膨らみもない。
押しのけられた服が、何事もなく元の位置に戻る前に、俺は女の子を追いかけて、同じ服と服の間に体を滑り込ませた。

あっさりと突き抜けた。

反対側にも大量の冬服はあったはずのに、一切無くなっていた。
一瞬だがなんとも言えない感覚があった。
振り返る間もなく、女の子の悲鳴が聞こえる。

「キャーッ」

慌ててエスカレーターの方に駆け出す。

妙だ。

蛍光灯は点いているのに、視界の半分より上が薄暗い。
フロアの端が見通せない。エスカレーターも止まってる。
人の気配はあるのにお客さんが誰もいない。

床も古いなりに磨かれていた床から、ところどころヒビ割れてボロボロになって掃除されていないようだった。

何よりハッキリと子供心にも印象的だったのは、売っている服や物が全て夏物になっていたこと。

一瞬で品物が全て夏服などに変わり、薄暗い無人の売り場になってしまったこと。
閉店後の店内ほど暗いわけでもない。
しかし、デパートの店内放送もない。

なんだこれ?何が起きたんだ?
とにかく女の子が危ない!

女の子の聞き慣れた足音はしている。
走ってエスカレーターを上って行っている。
ひとつ上のフロアだ。

止まったままのエスカレーターを駆け上がり、女の子を探す。

いた。

「見ーつけた!一体大声でどーしたの?」

「ギャーッ」

「え?どうしたの?まって、まってよ!」

悲鳴がより一層大きな泣き声混じりになって、泣きながら逃げ出す女の子。
その反応に呆然としてしまい、また女の子との距離が離れてしまった。

なんであんなに驚いてるんだろう?

再度エスカレーターを駆けまわり、差を付けられた女の子を追いかける。
いつのまにか自分の足音しかしなくなっていた。

しばらく駆けまわって、やっと女の子を探した。
セールワゴンの下に隠れてガタガタ震えていた。

「◯◯ちゃんやっと見つけたー。・・・どうしたの?怖かったの?ごめんね」

女の子は泣きながらぶんぶんと首を振る。何を聞いても喋らない。
口に人差し指を当てている。

「静かに?かくれんぼ?」

うなずく女の子。

仕方ないから、同じように黙ってワゴンの下に潜り込んで、落ち着かせようと女の子と一緒に隠れる。

「大丈夫だよ。大丈夫」

しばらくして、女の子は落ち着いてきたようだった。

一体何があったんだろう。
足音が近づいてくる。
心臓の音が大きくなる。

誰だろう?
誰だろう?

3階にも何階にも女の子のお母さんも、話し声はするのに人は誰もいなかった。
どうか隠れていることがバレませんように。
そう願いながら呼吸を止める。
不意に辺りが暗くなる。

女の子が後ずさる。
後ろに誰かいる?

俺は振り返る間も無く、そのまま右足首を凄い力で掴んで引きずり出された。

逆さまに宙吊りにされていく感覚。

ブツッ。

録画に失敗したかのように。
そこから記憶が無い。
何を見たのか分からない。

暗転。

そしていきなり、明るくなったと思ったら、小学校の体育館で集団予防接種の注射を受けて泣く『6歳?から突然3歳の別人になった』自分の記憶がある。

旧6歳以降~新3歳の記憶が無いのは、たぶん死んだからじゃないか?と思う。
今でも、あれは夢だったことにしたい。
理不尽で納得のできない

その後しばらくして妹が誕生した。

それからしばらく、記憶も薄れた数年後。
小さい頃からよく世話をして、仲の良い妹は、ちょっと離れただけで火の付いたように泣き出す。
鬼ごっこやかくれんぼを怖がり、微妙な隙間をひどく怖がるため、ふすまの微妙な開けっ放しはこまめに閉めたり、世話には色々気を遣った。
一人で留守番もさせられない。

妹は夜中に突然泣き叫んで、「赤い目の鬼に追いかけられた」と話した。

大丈夫、鬼はいないよ。
大丈夫だよ。

そう寝かし付けて更に十年。
夢の話を母は信じず、父も信じなかった。
そもそも、両親は妹が同じ夢で何十回もうなされ続けていることさえ覚えていない。

俺が高校、妹が中学に上がる頃、またあの怖い夢を見たという。
飛び起きる様は、まさに鬼に追いかけられていたと思わんばかりに、恐怖に引き攣った顔と汗、上げかけた悲鳴。

溢れ続ける涙。

それまで赤い目の鬼に追いかけられた。
ものすごく怖かったから、思い出したくない。
もう夢を見たくない、と泣いて嫌がる不眠症気味の妹に初めて夢の詳細を聞いた。

それまでは何度聞いても、頑固なまでに話さなかった。

妹「あんまり言いたくないけど、古いデパートでかくれんぼしてて、鬼に追いかけられて隠れたのに、見つかった」

俺「もしかして3階の婦人服売り場にお母さんがいて、男の子も一緒だった?」

妹「え?うん」

俺「冬服のファーのついた毛皮のコートをかき分けたよね?突き抜けたら夏服で」

妹「う、うん。そうだけど、お兄ちゃんに話したっけ?」

俺「いや、初めて聞くと思うけど、夢じゃなくてたまたま覚えててさ」

妹「そう・・・。今のお母さんじゃない、別のお母さんとデパートに来ていて、男の子を振りきって毛皮のコートをかき分けたはずなのに、突き抜けた後、いつの間にか先回りしていた男の子が10数えはじめて・・・数えている間にどんどん声が低くなって、目の前で大きな赤い目の鬼に変わって、余裕たっぷりにゆっくり歩いて追いかけてきたから、逃げ出したの」

俺「そうか・・・それは逃げ出すよな・・・」

妹「でもまさか、あの時の男の子がお兄ちゃんだったなんて、変な感じ。名前も違って、同い年だったのにね」

妹がポツリポツリと語る内容は、想像をはるかに超える恐怖だった。
男の子に会った時には、鬼が化けていると思ったのだそうだ。
一緒に隠れた時の男の子は本物で、「大丈夫」と優しく励ましてくれたそうだ。

ただし、夢の終わりは誰かが男の子を引きずり出す所で、次は自分の番。
その恐怖のあまり目を覚ますのだという。

妹には前世の記憶じゃないか?と言うのも怖過ぎるから、同じ夢を見たんだということにしている。
あのうなされ方はただでさえ辛いだろうに、「それはたぶん、死んだ時の記憶だよ」と、これ以上怖がらせる真似はできない。
幸いにも、最近は見なくなったようだが。

「ちょっと目を離した隙にいなくなって、神隠しらしい」

そんな話は、現代でもまばらに聞く。

「生まれる前の記憶がある」という話も眉唾ながら読んだ。
だから、そう珍しい事象ではないのかもしれないが。

神隠しに遭う話は『神隠しに遭遇すること自体』が事件であって、それに続きがあるなんて、そんな結末が待っているなんて、妹から聞くまで思いもしなかった。

ただの勘違いと、悪い夢であって欲しいと、切に願う。