友人の話。

高校生の頃、彼は部活で山に行った時にコンパスを失くしてしまった。
方位磁針とルーペが一体になった物だった。
首から下げていたのだが、たぶんどこかで紐が切れたのだろう。
残念だったが、仕方がないと諦めたのだそうだ。

山から帰って三日目、彼はソファに横になってテレビを見ていた。

コツン!

いきなり、彼の額に落ちてきた物がある。
固くて軽い物。
何だと慌てて拾い上げると、それは山で失くしたはずのコンパスだった。

上を見上げたが、そこにはいつもと変わらぬ天井があるだけだった。

彼はそれ以来、そのコンパスを大切に使い続けている。