昔の職場の同僚Aさんから聞いた話。

Aさんは関西に住んでて、毎年お盆は中国地方にある田舎に車で帰ってた。
その年は生憎翌日も仕事があったので、日帰りすることに。

墓参り等を済ませて実家を出た頃には夜になっていた。
帰りは高速を使うつもりだったんだけど、既に帰省ラッシュが始まってたんで夜とはいえ混んでるかも知れない。
それで手元にあった抜け道マップを見ると、ちょうど良い道があったのでその道を行くことにした。
後から考えるとこれが大失敗だった。

抜け道は山の中の一本道で街灯もあまり無く、対抗車も先行車・後続車も全く無い為、本当に一人ぼっちで走っていた。

日付が変わってしばらくした頃、道の遥か先に何だかよく分からない白いものが現れた。
その白いものは段々増えていき、やがて白い集団になった。
白い集団は道を塞ぐ様なかたちで、ふらふらゆらゆらと動いていた。

それらは一見白い服を着た人間のように思えたんだけど、何か違う・・・『彼ら』の挙動には、何というか人の意志のようなものを感じなかったからだ。
Aさんはここで初めて「もしかしてあれ、幽霊かも」と思った。

Aさんがビビっている間も車はどんどん(ゆっくりだが)進んでいく。
段々近づいてきて、暗いながらもハッキリと見えるようになるが、やはりその白い集団は、白い服を着た『人間のようなもの』だった。

そこまで近づいても、その白いものが人間なのか幽霊なのか判断出来なかった。
白い集団は完全に道を占拠してしまっている。

Aさんに残された選択肢は・・・。
・幽霊だと判断して突っ切る。
・人間だと判断して止める。
この二つ。

Aさんは迷った。

Aさんは迷った末、結局止まることにした。
止めた途端、白い集団は車を取り囲み、窓を叩いたり車を揺らしたりした。

「ひえぇぇぇ」と車内でガクブルしてたところ、新たに白い人影が二つ現れ、その二つの人影は、明らかに白い集団と違う、人の意志を感じるものだった。

よ~く見ると、彼らは看護婦と白衣を着た医者だった。

白い集団は、道の脇を下りた所にある◯◯病院の患者だった。

「時々患者を外に出して散歩させるんだけど、昼間は様々な理由で避けたい。この道は夜になると車はほとんど通らなくなるので、散歩させるにはちょうど良い。今まで散歩中に誰か人や車に遭ったことは無かった、あなたが初めてですよ」などと説明されたそうな。

「タネを明かされるとなぁんだとなるけど、なにも警戒してない状態で深夜にあんな集団に出くわしたら、普通はパニックになるわな」と笑いながらAさんは話してくれた。

そのAさんが真面目な顔で最後に言ったのがこの言葉。

Aさん「でも、後から思い返してみて、一番怖かったのはあの時の判断だな。あの時幽霊だと決めつけてアクセル踏んでいたら、間違いなく何人か轢いてた。あの時止まって良かった。本当に良かった」