先輩の話。

大学生の頃、友人と二人で秋の山に入った。
友人が紅葉の写真を撮るのに付き合っていたのだとか。

ある夜、どこからか楽しげな笛の音が流れてきた。
耳を澄ませば、太鼓や鈴の音も混じっていたという。
秋祭りだと思った。こんな山奥で変だとも感じたけど。
お祭り好きな二人はなんとなく嬉しくなり、祭り場を探して歩き出した。

テントを張った地からしばらく行くと、切り立つ崖があった。
足元の谷間で、小さいながらも活気ある祭りが仕切られていた。
距離はあったが、型抜きや金魚すくい、綿飴の屋台らしき物が確認できたそうだ。
こんな山奥で一体どこから電気を引っ張っているのか、古びた豆電球が幾つもぶら下げられていた。
かすかな笑い声が、風に乗って崖の上まで届いてくる。

しかし、先輩たちは祭り場に降りては行かなかった。
祭りの会場を賑やかす黒い影は、人型でない物が大半を占めていたのだ。

友人「良い絵なんだけど・・・撮ったら拙いだろうな、やっぱり」

そう言ってから、友人は残念そうにカメラを引っ込めた。
しばし遠くから祭りの空気を楽しんで、テントに帰ったという。