私には8つ離れたいわゆるDQN兄がいます。
兄はチャラくてお金と女にだらしなく、しかし、なぜかモテる人でした。

私が15歳の頃、兄は家にほとんど帰らないか兄が家にいる時は、いつも玄関には女性のブーツが置いてありました。
そして、よく兄の部屋からは女性のすすり泣く声と(卑猥な声ではありません)、ドスの聞いた声で「金は?」と女性に問いかける兄の声が聞こえていました。

(またか!可哀想だ・・・)

内心思いつつも、兄に注意をすると逆ギレをされるので、私はおとなしく部屋で見て見ぬふりしか出来ませんでした。

そんなある日、学校から帰宅するとまた玄関には女性のブーツ。
兄の部屋からは、「帰れ!別れよう!」と怒鳴る兄の声と、女性の泣き叫ぶ声が聞こえた。

そして近隣の人が通報するのではないか?とヒヤヒヤするレベルな女性のヒステリックに泣き叫ぶ声と、「死んでやる!死んでやる!」という言葉が私の部屋に鮮明に聞こえてきた。

そんな出来事から3日が過ぎる頃、真夜中に兄がバタバタと私の部屋に来ました。
真っ青な顔をした兄は私の部屋の電気とテレビをつけだした。
突然、部屋に侵入されて睡眠を妨害された私は激怒。
普段、私の部屋には来ず、お互い家にいても用件はメールで済ましているような距離感である兄が突然部屋に来たら、それは怒りしかなかった。

「なんだよ?入ってくんなよ!」

キレる私に逆ギレすることもなく兄は、真っ青な顔で「この部屋で過ごさせてくれ!理由は後で話すから!」と今にも泣きそうな声で悲願。

私は「後で話す」と言ったその理由とやらが知りたくて、「必ず教えてくれるのなら良い」と渋々了承。

音量を下げたTVを朝までつけられ、私の部屋に転がっていたジャンプを読みながら兄は一夜を過ごした。
そんな夜が終わり、私はなぜ怯えた顔で昨夜は部屋に来たのかを問いただすと、兄は体験を話してくれた。

話を聞くと横向きの姿勢で寝ていた兄の無防備な背中に突如、何かが抱きついたという。

冷んやりとした何かに力強く抱きつかれ、耳元に「ハァハァ」と息を吹きかけられた。
その生々しい感触に首を動かしてみると、あの泣き叫んだ元カノがヤモリのようにビッチリ身体に張り付いていたという。

兄は、それを振りほどき私の部屋にダッシュ!

自分の部屋に戻るのも恐いし、リビングに一人きりでも、“もし、追いかけてきたら”と不安があったらしく、私の部屋に来た経緯を話してくれた。

「それは・・・幽霊では?」

昨夜の記憶を語る兄の恐怖心を刺激するように問いかけると、兄は元カノに電話。
幸い元カノさんは生きていたようでしたが、それからも車を運転しているとバックミラーに元カノがチラリと映り込んだり・・・。
さらに駐車場に止めてある車の窓ガラスに元カノとよく似たシルエットの影が見えたり、友人と食事中にファミレスの窓ガラスから元カノが映っていたという現象を兄の友人まで目撃したという。

ちなみに、兄は自覚がなかったらしいが、私の部屋に駆け込んできた兄からは女性用の香水らしきニオイがしていた。

それは、兄と交際していた女性が家に遊びにきた際に玄関に置いていたあのブーツから漂う香水(香りつき消臭剤かも知れん)によく似ているニオイだった。

そんな奇怪な現象と共に兄は異常な肩凝りに悩まされたが、半年後にはおさまり、3年後・・・親の実家がある北海道に家族で帰省をした。
親戚たちとの再開を楽しむ親とは別に、私と兄は真っ暗な北海道の夜道を車で走っていた。

怪談話には最高の雰囲気に、私が例の元カノの話を振ると突然、茶色い物体が物凄い勢いで車を横切った。

すぐさま車を止めて私が外に見に行くとイタチらしき動物がグッタリと倒れ込んでいた。

(あぁ、田舎はやっぱりこんなことがあるんだな・・・)

親戚から聞いた動物が道路に飛び出してくる話を思い出していると、兄は「イタチではなく元カノが横切った・・・元カノを轢いちゃった」とガクブル状態で呟いていた。

それからの帰りの車内は無言。

怯えた表情で、スピードを出しながら兄は運転し、逃げるようにまた賑やかな親戚の家に戻った。