先輩の話。

彼の家近くの山に、良い蓮根が取れる沼地があるのだそうだ。
誰が手入れしているわけでもないのに、毎年結構な収穫があるという。

奥さんと一緒に取りに行っていた時のこと。
泥の中をまさぐっていると、誰かがぎゅっと先輩の手を握ってきた。

小さな幼子くらいの大きさだったらしい。
それは硬直した彼の手をしばらくニギニギしてから、すっと泥中を離れていった。

すぐさま奥さんの所へ飛んで行き、「何かがいる!」と訴えた。
上がろうと言う先輩を押し止め、奥さんは平然と切り返したという。

大丈夫よ。
これまでも何もなかったし。

彼の醜態を見ていたはずの周りの奥様たちも、皆一様にしれっとした顔。
母ちゃんは強いよなぁ。
そう言って先輩は感心していた。