知り合いの話。

新緑深い山道を車で走っている時のこと。
カーブを曲がった所で、目の前にごろんと丸太のような物が転がっていた。
しかし丸太ではない証拠に、半ば透き通ったそれはズルズルと斜面を這い登っている。

何だこれは?

車を停めて観察していた彼は、それがどうやら大きな蛇体だと結論を下した。
一体どれだけ大きいんだ?いや、それ以前に透き通った蛇なんているのか?

恐ろしさより好奇心が勝って、尻尾を見てやろうと待ち構えていた彼は、自分がとんでもない勘違いしていることに最後まで気がつかなかった。

蛇は前進していたのではなく、後退していたのだ。

下の繁みから引き抜かれた蛇の頭が彼を見下ろした時、彼は凍りついたように動けなくなった。
なぜかその顔は、つるりとした坊主頭の人間だったという。

大蛇は硬直している彼をからかうようにニヤリと笑い、そのまま後ずさりながら初夏の山を登っていったそうだ。