知り合いの話。

通い慣れた、地元の山道を歩いていた時のこと。
その日は朝から、ひどく濃い霧が出ていたという。
まぁよく知った道だから心配もあるまい。
そう考えて足を進める。

ある地点で違和感を覚えた。
どこか道の形が違う気がする。

確認のため足を止めた彼は、自分が覚えのない一本道の上に居ることに気がついた。
道の両脇は黒い草叢が茂っている。
いつの間に道を間違えたのか、全然わからない。

しかし、途中に間違って入り込む脇道は一本もない筈だが・・・。
なぜか、道の外へ足を踏み出したら帰れなくなる気がした。
一歩一歩、注意してゆっくりと歩くことにする。

どれだけ歩いたろうか。
唐突に霧が晴れ、視界が開けた。
辺りの風景を見ると、確かに彼の覚えている道だ。
いつもは小一時間で歩く道程に、半日近くの時間が掛かっていたという。

彼は霧の中、一体どこを歩いていたのだろうか。